5月1日、東京、新国立劇場の公演初日。
舞台の開演直前、暗転から、照明が灯され、明るくなると、舞台には今井さんの姿がありました。
大きな拍手が湧き起こりました。
舞台中央の小道具の椅子に座っていました。
舞台に立ちたいという思いが、伝わってくる光景です。
「今井さんっ!!」
という声が、何度となく場内からかかります。
今井さんは、しっかりと観客の皆さんにご挨拶されました。多くの方々が今井さんが降板した舞台を、それでも観に来て下さったことへ、心から感謝を込めて。ここでも今井さんは、渾身の力で声を上げ、マイクで思いを語ってくれました。そして、きっと舞台に復帰する!! と、決意を新たにしたのです。
ガンはステージ4。体内の臓器のあちこちに、病魔は転移し、医師は「ここまでに至るのに10年はかかったはず…」と言ったそうです。
常人ではありえない忍耐力、執念、体力、と気概の強さで、ここまでキャリアを突き進んできた今井さんを知る者は、「ひょっとして、もしかしたら、末期ガンをも克服する奇跡を起こすのではないか…」と感じていました。本当に、それが可能な人なのではないかと。
でも、その強さがあったからこそ、きっとこの10年、そしてこの1ヶ月を、一歩も立ち止まらずに走って来れたのでしょう。
完全に、フルの100%、「精一杯!」生きて、生きて、生きてきたのだと、今、思います。
今井さんは、「熱」という言葉が誰よりも似合う人です。
それも、真っ赤に燃えるような「熱」。
1993年に、僕が生まれて初めて挑んだオーディションで出会い、今井さんと「THE WINDS OF GOD」という作品は、僕にとって、俳優キャリアのスタートと、初期の人脈のすべて、そして経験を与えてくれました。
もし、NYのオフ・ブロードウェイ公演で、現地の観客と批評家たちの目の前で演じるチャンスを頂くことがなかったら、その後の僕の、アメリカ業界への道のりは始まってもいなかったのかもしれません。
「THE WINDS OF GOD」という舞台は、まぎれもなく、僕にとって「教科書」、そして、「青春」です。
そこから僕は、演技と、日本にとって重要な(戦争の)歴史の1ページと、のちの生き様にも通ずる、「やりたいと思うことに、全力で、本気で、挑んでみる!」という在り方を学んだと思います。
今井さんは、最後まで、本当に最後の瞬間まで生きて闘う自身の姿で、僕のような俳優にだけではなく、社会の皆さんに、演劇や映画ファンの皆さんに、「夢」を持つことの大切さをおしえてくれたのではないでしょうか。
27年間、彼がライフワークとして続けた「THE WINDS OF GOD」は、きっと誰かが引き継いでいくことでしょう。
俳優なら、一度見たら、誰もが
「自分も演じてみたい!」
と思える作品ですから。
そして、今井さんが伝えた「熱」を、彼といっしょに演じた僕らは、きっと無意識でも、引き継いでいくと思います。
そういう財産を、今井雅之さんという先輩は、僕らの胸に遺して、先に、走っていってしまいました。
何倍もの速さと、何倍ものエネルギーで。
image by:shutterstock , Amazon
『ハリウッドで俳優として生きる! 尾崎英二郎の「夢」を掴むプロセス』 より一部抜粋
著者/尾崎英二郎(俳優)
アメリカの映画・TV業界で活躍、出演作に「ラストサムライ」「硫黄島からの手紙」などがある。メルマガには、やりたいことを志す人、進路に迷う人、仕事に活路を見出したい人全ての方々へのヒントが満載。
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