米ロ関係の今
ここまで読んで、昔からの読者さんは、疑問に思うでしょう。
「ええ?!北野さん。『AIIB事件』で目覚めたアメリカは、中国を打倒するために、ロシアと和解しているのでは?」
そうなんです。アメリカとロシアは、AIIB事件後、共同で
- ウクライナ内戦
- イラン核問題
- シリア内戦
を解決し、以前より関係が良好になっています。実際、ケリー国務長官とロシアのラブロフ外相は、付き合い始めたばかりの彼氏彼女のように頻繁に電話し、会っている。
ところが、普段は複雑になるので書かない事実がある。実をいうと、アメリカの対ロシア戦略は分裂しているのです。オバマ、国務省は、「ロシアと和解し、中国を打倒する」というリアリズム路線。一方、国防総省は、「中国もロシアも両方叩け!」という、「単独覇権路線」なのです。そして、ペンタゴンは、NATOのさらなる強化と東方拡大を進めています。
なぜ、国防総省は、「反プーチン」なのか?アメリカを中心とする有志連合軍は、1年ISを空爆し、ほとんど戦果をあげられなかった。ところが、ロシア軍が2015年9月30日に参戦。ロシアは、ISの石油インフラに、容赦ない空爆を繰り返し、「資金源」を断つことに成功。結果、ISは、アッという間に弱体化し、ロシア軍はわずか半年で撤退をはじめた。
要するに、米国防総省は、「ロシア軍は、かなり強い」ことに気がついた。それで、「NATO強化と東方拡大政策」をますます熱心に推進している。これがプーチンを苛立たせ、中国との関係を切れないでいるのです(国内で、「対〇国政策」が分裂していることは、よくあります。たとえば、アメリカ財務省は親中国。国防総省は、はっきり反中国です)。
日本とロシアの関係
プーチンは、安倍総理が「親プーチン」であることを知っています。しかし、安倍総理の微笑みの裏に、「島返せよ!」という意図があることも、もちろん知っている。総理が、「経済協力8項目」を提案した裏に、「島返せよ!」という意志があることを知っている。それでも、現在の苦境を脱するために、日本との関係を改善させたい。
しかし、一方で、「安倍は、結局アメリカに逆らえない」という思いもある。ソチで、安倍総理と仲よく話して、日ロ関係がよくなった。しばらくするとオバマさんが来て、広島を訪問。安倍さんの訪ロで少し悪くなっていた日米関係が、また良好になってしまった。そして、G7諸国は、「対ロシア制裁継続」で一体化している。これが、またプーチンを苛立たせます。
つまりロシアから日本を見ると、「安倍総理は、確かに親ロシアだが、アメリカから行動を制限されていて限界がある」。そのアメリカは、欧州ではNATOを強化し、「反ロシア包囲網」を築いている(米国防総省主導)。ですから、プーチンは、思い切って日米の方に来られないのですね。
日本は、どうするべきか?
この質問に答えるためには、「原点」に戻る必要があります。原点は、中国の「反日統一共同戦線」戦略です。中国は、アメリカ、ロシア、韓国と「反日統一共同戦線」をつくろうとしている。上策は、「敵の戦略を無力化すること」。となると、日本は、中国と逆のことをすればいい。
- アメリカとの関係をますます強固にする
- ロシアとの関係をますます強固にする
- 韓国を中立化させる
こういう視点から今回の事件を見ると、日本政府の対応はパーフェクトでした。
菅義偉(すがよしひで)官房長官は9日の記者会見で「中国が尖閣諸島に関する独自の主張を行い、これまで公船による領海侵入などを行う中、緊張を一方的に高める行為で深刻に懸念をしている」と強い不快感を示した。
その上で中国だけに厳重抗議した理由について「ロシアはそうした事情がなく、同様の対応は行っていない。ロシアに対しても必要な注意喚起は行った」と述べた。
つまり、「中国は尖閣の領有権を主張している」、「ロシアは尖閣の領有権を主張していない」。だから、中国にだけ「厳重抗議した」というのです。正しいですね。
読み返してみて、現在の日米中ロ関係は、とても複雑だなと思います。今の世界情勢は、1930年代並に移り変わりが激しい。1930年代、日本は、中国に見事に孤立させられ、敗戦への道を歩きはじめました。今回は、賢明に、米ロを味方につけ、中国を孤立させ、戦争を回避しましょう。
image by: Gennady Dolgov / Shutterstock.com
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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