世界一貧しい大統領は元・テロリスト? ホセ・ムヒカ氏の数奇な半生

 

受けた銃弾6発、逮捕・投獄4回

Q:ホセ・ムヒカ氏は、都市ゲリラとしてどんな活動をしていましたか?

小川:「ただ都市ゲリラ・ツパマロスの一員だったというだけではありません。ゲリラとして実戦を戦った筋金入りです。さまざまな襲撃や誘拐にも関与し、受けた銃弾は6発で、重傷を負った経験もあります。逮捕・投獄されたのは4回で、うち2回は脱獄しています。奥さんのルシア・トポランスキー上院議員もツパマロスのメンバーですね」

「1972年に逮捕されると、翌年に軍部クーデターが勃発したので、ホセ・ムヒカ氏は軍事政権が終わるまで13年近く収監されていました。この間は軍事政権が取ったゲリラの人質という扱いでした。民政移管と前後して出所したあと、彼はゲリラの同志らと左派政治団体を結成、1995年の下院議員選挙で初当選し、2005年にバスケス政権ができると農牧水産相として入閣しました」

「今回の来日前、朝日新聞がホセ・ムヒカ氏にインタビューしています。そのなかでゲリラとして投獄された体験を語っていますので、引用しておきましょう」

世界一貧しい大統領と呼ばれた男 ムヒカさんの幸福論 (2016年3月31日 朝日新聞 聞き手・萩一晶) 

■獄中に14年、うち10年は独房に 

──軍事政権下、長く投獄されていたそうですね。 
「平等な社会を夢見て、私はゲリラになった。でも捕まって、14年近く収監されたんだ。うち10年ほどは軍の独房だった。長く本も読ませてもらえなかった。厳しく、つらい歳月だったよ」 
「独房で眠る夜、マット1枚があるだけで私は満ち足りた。質素に生きていけるようになったのは、あの経験からだ。孤独で、何もないなかで抵抗し、生き延びた。『人はより良い世界をつくることができる』という希望がなかったら、いまの私はないね」 
──刑務所が原点ですか。 
「そうだ。人は苦しみや敗北からこそ多くを学ぶ。以前は見えなかったことが見えるようになるから。人生のあらゆる場面で言えることだが、大事なのは失敗に学び再び歩み始めることだ」 
──独房で何が見えました? 
「生きることの奇跡だ。人は独りでは生きていけない。恋人や家族、友人と過ごす時間こそが、生きるということなんだ。人生で最大の懲罰が、孤独なんだよ」 
「もう一つ、ファナチシズム(熱狂)は危ないということだ。左であれ右であれ宗教であれ、狂信は必ず、異質なものへの憎しみを生む。憎しみのうえに、善きものは決して築けない。異なるものにも寛容であって初めて、人は幸せに生きることができるんだ」

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