世界一貧しい大統領は元・テロリスト? ホセ・ムヒカ氏の数奇な半生

 

いまは世界に知られる政治家

Q:ただ都市ゲリラとして戦っただけでなく、その後の長い独房体験がホセ・ムヒカという人をつくったようですね?

小川:「そうでしょう。彼は間違いなく都市ゲリラ組織の活動家で、政府側や軍部からはテロリストと呼ばれていたはずです。現在の視点からしても、ツパマロスが都市ゲリラ組織だったのか、テロリスト集団に近いものだったのかは、評価が分かれるところだと思います。一方、そんな組織にいて襲撃や誘拐にも参加したホセ・ムヒカ氏は、その後に立派な政治家となり、いまでは人びとに愛され尊敬され、世界によく知られた人物です」

「そこで思うのが、IS(イスラム国)、アルカイダといったテロリスト視されている集団やタリバンからホセ・ムヒカ氏のような人物が出てくるだろうか、ということです。いまISは欧米など多くの国にとって殲滅の対象ですが、やがて歴史的な評価に耐え、優れた政治家を出すようにならないとも限りません。ポイントは、その人物がどんな暗殺や襲撃事件に関わったかではなく、民衆のために命をかけ民衆に愛されたかどうかでしょう」

「たとえばアラファト議長も、昔はテロリストと呼ばれていました。パレスチナと対峙していたイスラエル側も、初期のリーダーたちは敵方からはテロリストと呼ばれていた活動家でした。そんな評価は時代によって位置づけが変わります

「アラファトで思い出すのは、来日した彼がテレビ朝日の報道番組に出たときのことです。司会の小宮悦子さんが『アラファトさんはテロリストだったんですけど……』と口走り、アラファトがドン引きしたシーンを、たまたま見ていて、よく覚えています。アラファト紹介のニュース原稿は報道局のスタッフが書いたのでしょうが、いくらなんでも本人を前にして、元テロリストなんていうか、と呆れましたね(笑)」

「都市ゲリラ・ツパマロスで私がもう一つ思い出すのは、1970年に三一書房から出た『都市ゲリラ教程』という本です。これは同志社大学時代の私の仲間たちが翻訳して出した本なのです。都市ゲリラ戦術のマニュアル本で、当時の新左翼の世界的な定番でした。著者のカルロス・マリゲーラはブラジルで民族解放行動(ALN)を率い、軍事政権に抵抗したマルクス主義革命家です。銀行強盗や外国要人の誘拐といったゲリラ活動を繰り返し、1969年11月にサンパウロで警察に射殺されています」

「カルロス・マリゲーラが書き残したものを翻訳して出したのは日本・キューバ文化交流研究所というところですが、これは大正時代の首相・山本権兵衛の孫娘の山本満喜子さんが所長をやっていました。彼女はキューバ首相のフィデル・カストロともっとも親しい日本人といわれた人です。加藤登紀子さんのご亭主、元反帝系全学連委員長だった藤本敏夫氏も研究所に一枚かんでいました。そんな本のこともあり、私はホセ・ムヒカ氏に妙に親近感を感じているところです」

(聞き手と構成・坂本 衛)

 

NEWSを疑え!』より一部抜粋

著者/小川和久
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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