作家・石田衣良さんが親切にお悩みに答えてくれるメルマガ『石田衣良ブックトーク「小説家と過ごす日曜日」』。今回は臓器移植の是非に悩む女性からのお便りです。以前は「欲しい人にあげればいい」と軽く考えていたそうですが、臓器移植の実態を知るにつれ「良くないことなのでは?」と思うようになったとのこと。この難しい問いかけに石田衣良さんが出した答えは、意外なものでした。
臓器移植は本当に良いことなのでしょうか
Question
41歳、女性です。臓器移植についてどう思いますか? 若い時は「使えるものは使えばいいよね。死んじゃったら痛くないし、欲しい人にあげればいいよね」と考えていました。でも、移植後の臓器が適合せずに亡くなってしまったり、感染症の恐れがつきまとったりする可能性もあります。今は「もしかして良くないことではないか」と思うようになりました。
石田衣良さんの回答
なるほどね~。なかなか難しいところを突いてきましたね。実際にその臓器がなければ生きていけない人にとっては、ものすごく重要な問題かも知れないですけれど。ぼくは基本的にあなたの言っている意見に賛成なんです。臓器移植とか代理母とか、あまり自然でない方法というか、超高度に発達した医療によって健康を無理やり引き伸ばすみたいなことには賛成してないんだよね。
正直言って、自分自身の人生も含めて、「人間って死ぬときは死ねばそれでいいんじゃない?」って思うんだけどね。死ぬことがそんなに悪いことだとは思えないし。周囲は悲しいしつらいけど、当人は別にね、なんてことないからさ。デリケートな問題ですけれど、ぼくもそういう意味ではドナーカードみたいなものに関しては一切記入していないですね。多分これから一生書くことはないだろうと思います。
もちろん、提供する人がいるおかげで助かる命もあるから、「自分は構わないよ」っていう人はやればいいと思うんですけれど。ぼく自身は「いいかな~」っていう感じです。
それについて、自分を責めることもないんじゃない? 現代の、あまりにも高度に発達してしまった医療の問題ってあるからね。臓器移植が本当にうまくいって子どもの命が助かるみたいなことであれば素晴らしいとは思うけど。例えば胃ろうをあけたり、気管切開をして、無理矢理寿命を引き伸ばされた意識のないお年寄りとかはどうなんだろう。
それに例の抗がん剤(オプシーボ)の費用は、一人で年間3500万かかるっていうしさ。さて、どうでしょうね。80歳、90歳でその薬を使えば2年か3年長く生きられる。そのためにみんなの税金から1億円出すかっていう問題は大きいよね。
ともかく今は寿命を長く延ばすことだけがやたらと尊くなっちゃっているけど、健康で元気に生きられる寿命以外は、あんまり寿命と考えない方がいいんじゃないかな。若者だったらまだいいけどさ。もうお年寄りは適当に上手に死ぬ方法をみんなで考えようってことだよね。
今の財政赤字の原因の8割ぐらいは年金と医療費ですよ。お年寄りが圧倒的に多いから、そこの費用が膨大で、何十兆円もかかっちゃうので。だから年金も、どんどん削っていいと思うし、医療費も削らないとダメだよね。だってお金もうないんだから。
それとこの件に関しては何かが正しいということはないので、誰でも自分の選択をしていいと思います。自分の体だから。それで、選んだことに関しては、誇りを持って生きればいいんじゃないですかね。
source: 石田衣良ブックトーク「小説家と過ごす日曜日」
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『石田衣良ブックトーク「小説家と過ごす日曜日」』
著者:石田衣良
本と創作の話、時代や社会の問題、恋や性の謎、プライベートの親密な相談……。
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