犬猿のトルコとロシアが電撃和解せざるを得なかった「大人の事情」

 

プーチンは、なぜエルドアンと和解したいの?

トルコの事情はわかりました。では、激怒していたプーチンはなぜトルコと和解したいのでしょうか

これは、「ガス」と関係があります。ロシアのガスは、主にウクライナを経由するパイプラインで欧州に出されている。ところが04年、ウクライナでオレンジ革命」が起こり、親欧米ユーシェンコ政権が誕生。すると、ロシアとウクライナは、「ガス問題でしばしば対立するようになります。

値段の交渉がまとまらず、ロシアは、ウクライナへのガスを止める。ウクライナは、「ロシア―欧州パイプライン」からガスを抜き取り、欧州にガスが届かずパニックになる。

ロシアは、「ウクライナ経由のパイプラインは問題が多いから、他のルートを開拓しよう」と考えはじめました。そして、つくられたのが、ロシアとドイツを直接結ぶ海底パイプラインノルド・ストリーム」です。これは2011年に稼働しはじめました。

ロシアはさらに、南ルートの「サウス・ストリーム」ガスパイプラインをつくりたい。こちらのルートは、ロシアから黒海、ブルガリアを経由してギリシャ・イタリア・オーストリアに至る。

ところが、2014年3月にロシアがクリミアを併合すると、「サウス・ストリーム」プロジェクトに反対する声が、欧州で大きくなってきた。そこでプーチンは2014年12月、「サウス・ストリーム計画は中止しトルコ経由のガスパイプラインをつくる!」と宣言。エルドアンもこの案を支持しました。このプロジェクトを、「トルコ・ストリーム」と呼びます。

ところが、2015年11月の「ロシア軍機撃墜事件」で、「トルコ・ストリーム」プロジェクトは凍結された。しかしこれ、反ロ・ウクライナに苦しむロシアにとっては、とても重要なプロジェクト。だから、プーチンも本音では再開したいと思っていた。そして、今回の会談で、そうなりました。毎日新聞8月9日。

プーチン氏によると、会談の主要テーマは

 

▽貿易関係の復興
▽エネルギー協力の再開▽観光など人的交流の増進

 

――など両国の経済関係。

 

黒海経由でロシア産天然ガスをトルコに送る新パイプライン「トルコ・ストリーム」の建設計画や、ロシアによるトルコ初の原発建設といった大型プロジェクトの再始動で合意したという。

欧米に冷遇されたエルドアン。トルコ経由でパイプラインをつくりたいプーチン。二人の思惑は見事に一致し、「利」は、「憎悪」を超越したのです。嗚呼、これぞ「リアリズム」。日本人には、なかなかついていけません。とはいえ、日本人も「世界はこうなっている」ことを知っておく必要があります。いつも書いていますが、今の大国の動きは、「1930年代並に変化が激しい」です。怠らずに、世界の動きを追っていきましょう。

image by: Wikimedia Commons

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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