中国で異様な盛り上がりを見せる「女排精神」の不気味さ

 

こうした中で、「女排精神」の単語がひとり歩きして全国的に広がり、あたかも万能な「魔法精神」であるかのように取り扱われた。

たとえば安徽省の電気供給国有企業は「『女排精神』に学び、電気の安定供給に努めよう」とのスローガンを高らかに掲げ、山西省太原市地元紙は「『女排精神』を発揮して山西省の農特産品ブランドを創ろう」とする情熱的な社説を掲載した。IT業界のある企業が「ネット金融を成功させるのには『女排精神』が必要」とのコメントを発表したかと思えば、LED照明業の業界紙は「『女排精神』はわが国のLED企業にどのような啓発を与えているのか」との分析記事を載せた。

このように今の中国では、「民族の自信」を高めるのにも、「改革の困難」を乗り越えるのにも、解放軍を強くするためにも、山西省の特産品ブランドを創るためにも、ネット金融を成功させるためにも、とにかく何もかも全ては、「女排精神の力にすがらなければならないありさまとなっているのである。

もちろん「女排精神」といっても、それは所詮、中国女子バレーチームの20代そこそこの女の子たちが持つスポーツ精神にすぎない。

13億人の「大国中国」の人民日報から解放軍報まで、IT業界からLED業界までが、彼女たちのスポーツ精神を「民族の精神にまで持ち上げてまるで救世主」であるかのように拝もうとする…。

この滑稽な光景は逆に、現在の中国全体における「精神の欠如」を示している。誇るべき「民族の精神」が実際に何もないからこそ、にわか作りの「女排精神」を利用して心の巨大な空白を埋めようとしているのである。

つまり「女排精神」という言葉がはやった背後にあるのは、現代中国と中国人の「精神的貧困さ」である。このような国と民族に「未来」があるとはとても思えない。

image by: 語文迷(中国語サイト)

 

石平(せきへい)のチャイナウォッチ
誰よりも中国を知る男が、日本人のために伝える中国人考。来日20年。満を持して日本に帰化した石平(せきへい)が、日本人が、知っているようで本当は知らない中国の真相に迫る。
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