株価対策に100兆円! 中国政府が天文学的なお金をつぎ込んだ理由

 

信用恐慌と金融危機の一般

金融危機は、(1)不動産、(2)、(3)国債を含む債券、(4)デリバティブの価格崩壊から起こります。その前に、ファンダメンタルズから合理的な価格から、2倍や3倍も上になる高騰がある。

バブルはファンダメンタルズ(基礎的な経済指標)を大きく超えた価格という意味です。しかし、どれくらいの、株価でPER倍率ならバブルかという基準はない。地価のバブルの基準もない。

高値の後、大きく下がったからバブルだったと言っているにすぎないのです。FRBの名議長と言われたグリーンスパンも、リーマン危機の後、「米国の住宅価格がバブルとは、わからなかった」と言っています。

10年間の「シラーPER」では、ほぼ25倍がバブルの分岐点

株価を純益予想で割ったPERは、株価のファンダメンタルズです。ただし、変動の多い単年度の利益では、判断が難しい。

ノーベル賞経済学者のロバート・シラーは、10年間の平均純益で、株価を割るPERを考えて、120年分を公表しています。このシラーPER(Shiller P/E Ratio)では、25倍や25倍を超えたとき、暴落が来ています(120年間で5回)。シラーPERは、米国では注目されている指数です。

中国株の予想PERは、暴落前日の6月12日には、21倍でした。7月は16~17倍に下がっています。比較すれば、日本では7月で20倍、米国ダウでは16倍、ナスダックでは23倍です。

普通、20倍以上は、高値の恐怖がある水準です。予想PERは、企業が証券取引所に出す経営計画の、次期予想純益から計算されています。

(注)現在の株価水準:短期ゼロ金利と量的緩和が、日米欧のPER倍率を、5倍分くらい上げています。日本の株価は、2014年11月以降は、政府によるPKO(価格上昇政策)のため、20倍を超えても、特殊な状況です。

金融危機は、不動産と金融商品の高騰が続くように見えている日に、「ある日突然」、起こります。

(注)FRBの利上げ:FRBのイエレン議長が、2015年中の利上げを繰り返し言う理由は、ゼロ金利と量的緩和が生んだ、(1)株価バブル、(2)国債を含む債券のバブル、(3)不動産価格の上昇と、その後の崩壊を恐れているからです。

探求すべきこと

中国株の

  • 2014年11月からの急騰、
  • 6月13日からの急落が何を意味するのか。

本シリーズでは、この問題を解くために調べ、論理的に推理したことを書きます。

前号の779号で書いたように、根底での、2つの原因が浮かび上がってきました。

原因1:GDP成長率は、発表より4ポイント(%)低い

中国の実質GDPの成長率は、リーマン危機後の4兆元(80兆円)の経済対策が切れた2011年以降は、政府発表より3~4ポイント(%)は低かったのではないか。GDPは、企業の粗利益の合計です。GDPの伸び率が低いということは、企業の粗利益と利益も低い。

  • 2011年の実質GDPの増加は、9.3%ではなく5%付近
  • 2012年は、7.8%ではなく4%付近
  • 2013年は、7.8%ではなく4%付近、ということです。

物価上昇は、2011年5.4%、12年2.7%、13年2.6%とされています。これは、ほぼこれくらいでしょうか。

以上から、物価上昇を含む名目GDPでは、

  • 2011年10.4%(公式14.7%)、
  • 12年6.7%(公式10.5%)、
  • 13年6.6%(公式10.4%)でしょう。
    名目でも実質でも、ほぼ4%の差があります。

(注)名目と実質:名目GDPを示す理由は、個人の所得、企業の売上、利益、株価、住宅価格は、物価上昇を含む名目の値です。実質は、物価上昇を引いたものです。

名目GDPと実質GDPの内容、企業の売上と利益及び世帯の所得との関係を知ると、会社の売上、利益、自分の所得と結びつけた経済がわかります。

原因2:企業所得、個人所得の増加率の低下

名目GDPの増加率は、「個人所得+企業所得=国民所得」の増加率とほぼ同じになります。ただし、GDPは数値です。東芝の粉飾のように、集計結果に対し、エクセルの2を3に変えるというような修正を加えることができます。

企業の利益と個人の所得は、実際の会計金額です。名目GDPのように、政府が数値で作ることはできない。名目GDP増加が低い場合、企業の合計利益は、増えません。

株価は、ファンダメンタルズでは、企業の次期純益を予想し、「次期予想純益×PER倍率=期待株価」を判断指標にしながら、決まります。

中国の2014年10月まで上海総合指数の低迷(PERで8倍から10倍)では、政府発表のGDPとは別に、投資家は実際の企業利益の低下を見ていたのではないか、ということです。

国有企業であっても、政府は企業の売上や利益、実際に払う賃金の操作はできません。このため、政府が統計の実質や名目のGDPあるいは物価上昇率がいくらであろうと、人々は、今月もらう賃金から、実際の経済の成長を知ります。

2011年以降、人々は、自分の所得の伸び率の低下から、将来の期待所得を修正したのでしょう。

自社の売上や利益、そして自分の賃金から、人々が抱くGDPの成長期待値が低下した。このGDP期待値の低下が、

  1. 2010年からの不動産価格の上昇の停止、及び下落と、
  2. 2014年11月までの株価低迷(PERから10倍)の、根本での原因に思えます。

中国の株価は、リーマン危機以後の6年間、政府の株価対策で大きな上昇が始まる2014年11月までは、PERで8から10倍付近を低迷していました。

この株価は、実際の、人々が感じているGDPの伸び率の低下を反映したものだったのでしょう。出来高のグラフも出ています。2014年11月から、売買額が急に5倍に増えています。政府の株価対策によるものです(期間10年の、上海総合の、月足の罫線と売買の出来高)。

上海市場の売買の出来高を見ると、2014年11月以降は、それ以前の10年の5倍に増えています。5倍の資金が株式市場に投じられたことであり、これは、明白に政府の株価対策を示すものです。

>>次ページ 名目GDPの10%以上の増加はあり得ない

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