金利との関係でも、名目GDPの10%以上の増加はあり得ない
変動金利で2%台、固定でも3%台と低い住宅ローン金利(中国銀行)から見て、政府が言う名目GDPでの10%、実質GDPで7%の成長はあり得ません。
物価上昇を含んだ名目GDPの増加率は、数年単位以上の長期で見ると不動産価格の上昇に、ほぼ比例します。長期金利も、名目GDPの上昇とバランスします。「長期金利≒実質GDPの期待上昇率+物価の期待上昇率=期待名目GDP上昇率」付近です。
そして住宅価格も、以下のメカニズムで、結局は名目GDPの上昇との見合いで、判断されるのです。
(注)物価の下落があり、1998年からの17年間も、実質及び名目GDPでのマイナスが多かった日本では、GDPと企業所得、個人所得、株価、金利、住宅価格の、こうした関係が、忘れられてしまっています。
住宅価格は、10年後くらいの期待所得で、判断される
ローンで買う住宅の価格は、20歳代、30歳代の人の、現在の所得ではなく、10年後の所得の想定によって判断され、買われます。
事例を、年間所得100万円の、都市部の平均的な労働者とします。
(注)都市部の賃金は5万1474元とされ、1元20円で換算すると103万円です(国家統計局:2013年)。なお、北京は30%くらい高い。
(1)所得が年率で12%増え、その増加が続くと感じているとき
現在の住宅価格1500万円
÷10年後の所得100万円×1.12の10乗=1500÷310=4.8年分
(2)所得増加が7%に下がり、将来も7%と思っているとき
現在の住宅価格1500万円
÷10年後の所得100万円×1.07の10乗=1500÷200=7.5年分
名目のGDP成長率で15%を想定していた時代から、7%~9%の時代になると、人々は、将来の所得観を過去の12%から、7%上昇くらいに修正します。これは10年後の想定所得3.1倍が、2倍に下がることです。
住宅価格は、将来の想定所得との関係で「高い/安い」が決まります。人々はローンの支払い額と、ローンを払うときの将来所得を対照するからです。
(注)日本人の将来の所得観では、30代の人で、年2%の年齢給の上昇でしょう。年齢給として1年に2%の上昇が、上場企業の平均です。年収400万円の30歳の人が40歳を想定するとき、400万円×1.02の10乗=400×1.22=488万円でしょう。
個人所得に対して高い住宅価格でも、安く見える時期
中国の2010年までのように、名目GDPでの15%増と所得の12%増を想定している時代は、1500万円の住宅は、現在年収では15年分という高い価格であっても、3倍に上がった将来所得の想定からは5倍であり、安く感じます。
(注)名目GDPの増加と、企業所得及び個人所得(両方で国民所得)の増加は、ほぼ比例します。
このため、「上がらないうちに買っておこう」という動きになります。将来の想定年収(310万円)では、4.8年分の住宅価格だからです。
わが国でも、住宅価格が上昇し、所得が1年に7%は増えていた1980年代は、「住宅は早く買うもの」でした。1980年代は、この将来所得観は1年で7%の上昇だったのです。
(注)年収の5倍から最大でも6倍が、ローンが払える住宅価格の妥当値です。
同じ価格が高く見える時期
所得の伸びも二桁だった中国では、将来の名目GDPが7%しか増えず、個人の所得も7%しか増えないだろうと人々が感じるようになると、同じ1500万円の住宅が、将来年収の7.5年分です。「ローンを払うのが困難な、高い価格」になります。
このため、1500万円の住宅が売れ残り、価格が下がります。事実、上がり続けてきた中国の住宅価格は、政府の強い振興策がある時以外は、2010年を起点に、下がる都市が多くなってきたのです。
名目GDPの期待値は、資産価格(不動産と株)の上昇と下落を左右する、もっとも大きなファンダメンタルズ(基礎的経済指標)でしょう。
次号では、なぜ中国の名目GDPの想定値(期待値)が、2011年から公式発表より4ポイント(%)くらい下がったのか、その原因を解明します。まず、中国の、他国と違うGDPの内容からです。次は、中国の生産年齢人口の反転が、2012年ころからのGDPに及ぼしてきた影響と今度のGDPです。
中国も、日本の約20年遅れで、生産年齢人口が減る時代になりました。人口がわが国の10倍(13億人)ですから、65歳以上の高齢化のスケールも10倍です。
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