居酒屋のランチとコムデギャルソン。売れる仕組みの意外な共通点

 

ギャルソンのビジネスモデルには学ぶべきところが多々あるのですが、この「ハートマーク」は極めて賢いアイディアです。「誰もがギャルソンと理解できる唯一無二のモチーフだからこそ「ギャルソンが欲しいけど買えない」という人へのアプローチに繋がるし、アイコニックなデザイン故に「ギャルソン」という名前を広めるための広告宣伝Tシャツとしても機能します。「すぐれたブランドにはすぐれたアイコンが存在する」ものです。ポールスミスのマルチストライプ然り、バーバリーのチェック柄然り、ギャルソンのハートマーク然り、NIKEのスウォッシュ然り。

そしてギャルソンは世界トップクラスのブランドであり10万円以上する高単価な洋服を多数提案しています。それも他ブランドが絶対に着手しないような唯一無二のアバンギャルドなデザインで「替えがきかない」ものばかり。マス向けに入りやすいフロントエンドもあり、そうかと思えばごくマニアックな超高単価のバックエンド品まで商品展開をしている。顧客の成長性や教育段階において的確にアプローチできるように、超おしゃれな人でも服に興味を持ち始めた人に対しても提案できるように構造を作っているのです。

少し話がズレていますが続けます。

「では顧客の感度に応じて色々提案できるように山ほど商品を揃えれば良いということか?」と思うかもしれませんがそれは違います。むしろ可能な限りわかりやすく選択肢を提示する必要があります。洋服屋さんの場合はトップス・ボトムス・シューズと色々なカテゴリがあり選択肢を絞るのがなかなか難しいのですが・・・例えば「始めはうちのカットソーを買ってください、これは安いけれど凄く良いものです」と数千円のフロントエンド品を提示する。その次の来店時には「カットソーにこれを合わせると抜群にオシャレになるパンツがあります」と1万円のパンツを提示する。最後に「それらに合わせてこのアウターを羽織ると・・・」と3万円のアウターを提示する。この順番が明確であるほどに顧客は成長しやすくLTVは高まる結果となるでしょう。

なぜならば人は多く選択肢を提示されると意思決定を避けようとするものです。行動経済学者エルダー・シャフィール博士が提示した「決定回避の法則」です。社会的な人間は全て「自分にとってメリットがある選択」を採る傾向にありますが、選択肢が広がりすぎるとそのメリットデメリットが比較検討不可能なレベルに複雑化されてしまい、合理的な意思決定を下しにくくなるのです。すると誤った判断をしないようにと「決定を回避する」ことを選択するのです。・・・ですからこういったLTVを意識する場合、可能な限り明確に提案のステップアップを決めておく必要があるのです。

販売員はこの「フロントエンドバックエンド」を意識しており極めて効率的にLTVを高めているのです。ただもちろん販売員の場合ここまで論理化して自分の行動を定義づけている人は「皆無」と言って良いほどいないもの。だから選択肢を無駄に広げてしまったりするのでうまく機能させることができる人はそれほど多くはありませんが。ただいわゆる「カリスマ店員」と呼ばれる人のほとんどがこの構造を感覚的にでも実践しているものです。私は100名以上の販売員を見てきてそれを確信しています。

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