安倍プーチン会談の「惨敗」を伝えない大手新聞社の苦しい言い訳

 

新聞各紙の腑抜け状態

そういうことだったのだということは、上述のように朝日が暗示的に指摘している程度で、どこも明示的には書いていない。ようやく私が見つけた唯一の明示的な指摘は、「週刊文春」先週発売の12月29日号の常設コラム「新聞不信」欄で「政権『目線』の紙面にウンザリ」と題して次のように述べている個所だった。

(共同会見の)翌17日、朝刊各紙は「進展せず」をメインで報じると予想したが、見事に裏切られた。朝毎読日経4紙は北方4島での共同経済活動に向けた「特別な制度」構築へ協議開始することで合意したことを大きく取り上げ、事の本質を脇に追いやった。「経済活動」は安倍首相が提案し、領土で譲歩を引き出す狙いだった。それが出来なかった以上、期待はずれと言わざるを得ない。

 

産経・東京は「重要性で一致」「真摯な決意」と平和条約に向けた合意をメインにしたが、他の4紙と五十歩百歩。単なるお念仏に過ぎず、展望はない。「『引き分け』より後退か」(産経)など、各紙とも関連記事をすべて読めば失敗外交とわかるが、冷厳な結果を直截に伝えねば役割放棄と言わざるを得ない。

 

それだけではない。合意内容を含む「共同声明」「共同宣言」という名称で発表できず、「プレス向け声明」になった。しかも、日ロが別々に発表した。日本側が国後、択捉、歯舞、色丹の4島を明記する一方、ロシア側が「南クリール諸島」を譲らなかったという(朝日第2面)。

 

溝の深さを浮き彫りにする話だが、他紙には載っておらず、官邸にとって不都合な事実を書かなかったと勘ぐられても文句は言えまい……。

その通りである。この欄は外部のジャーナリストに匿名で書かせていて、私も昔、1~2度依頼を受けて書いたことがあるが、たまに文春的論調と離れたズバリの切り込みが見られるので、目配り対象の1つである。まさに官邸は「失敗」と放列を揃えられることを何よりも恐れて、必死の抑え込み工作をおこなったに違いなく、それに多くは屈して国民を目眩ましにかけるような紙面作りをしたのである。

昔の「大本営発表」と同じ偽情報による国民心理の総動員が罷り通っているのだが、その時代と決定的に違うのは、コラム氏が指摘するように「各紙とも関連記事をすべて読めば失敗外交とわかる」ようになっていて、たぶん各紙の「言い訳」は、「いや、大見出しは官邸の指示に沿うようにしたが、全紙面をそれ一色で埋めることはさすがにしていませんよ」ということなのかもしれないが、一般の読者が自分の購読する1紙を隅々まで読んで自分の頭で考えることは希だろうし、ましてネットニュースの要約版やテレビの解説だけで済ませている人がそういう関連記事に接する機会はない。私の場合は、主要紙のほぼすべての関連記事のみならず、マイナーなメディアの論調や英字の新聞やニュースサイトまで視野に入れているから、欺されることは滅多になく、その知見に基づく解析結果を本誌で吐露している訳である。

しかし、安倍・プーチンが「共同声明」さえ出せないほど折り合いがつかなかったことを国民に隠そうとするとは、まこと国の将来を傷つける政府による危険な自傷行為と言える。

print
いま読まれてます

  • 安倍プーチン会談の「惨敗」を伝えない大手新聞社の苦しい言い訳
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け