ソロスは、「親中」だった
次に、ソロスの中国に関する発言を見てみましょう。知らない人は、かなり驚くと思います。
彼は、06年に出版された本『世界秩序の崩壊~「自分さえよければ社会」への警鐘』の中で、アメリカと中国についての考えを明らかにしています。
ところが、ここに、皮肉にも愚かな事態が起きた。近隣の大国・中国が基本的に多極主義を受け入れ始めた矢先、アメリカ合衆国が正反対な方向へと動き、国際的な諸制度への疑念を強め、最近の国家安全保障面での難題に対して大幅に一極主義的な治療策を遂行したのである。
日本は、この両国の板挟みになった。かたや最大のパトロンかつ保護国ながら、昨今益々世界の多くの国々との折り合いが悪くなってきたアメリカ。かたやその経済的繁栄を持続させ確保すべく国際的システムにおいて安定と現状維持を志向しつつある中国。
ソロスによると06年当時のアメリカは、「昨今益々世界の多くの国々との折り合いが悪くなってきた」国である。一方、中国については、「経済的繁栄を持続させ確保すべく国際的システムにおいて安定と現状維持を志向しつつある」国。
06年時点のソロスの、「米中観」は明確です。つまり、彼は、「アメリカ=悪」「中国=善」と考えていた。この評価は、2010年時点でも変わっていません。彼は2010年11月16日の「フォーリン・ポリシー」で、
アメリカから中国への、パワーと影響力の本当に驚くべき、急速な遷移があり、それはちょうど第二次世界大戦後の英国の衰退とアメリカへの覇権の移行に喩えられる。
今日、中国は活発な経済のみならず、実際に、アメリカよりもより機能的な政府を持っている」という議論を呼ぶであろう。
と語りました。つまり、彼は当時、「イギリスからアメリカに覇権が移ったように、今は、アメリカから中国に覇権が移動している」と考えていた。さらに、中国は「アメリカよりも機能的な政府を持っている」と。
これも、本当に驚きです。というのは、ソロスは、「オープン・ソサイエティ」、つまり「開かれた社会」をつくりたいのでしょう? だから、彼の財団は、世界各地で独裁国の民主化勢力を支援している。
ところが、共産党の一党独裁国家、基本的人権の存在しない、「開かれていない社会」である中国だけは、完全に例外扱い。それどころか、大絶賛している。
反中に転じたソロス
「アメリカから中国に覇権が移っている」
「それは悪いことではない」
と考えていたソロス。しかし、彼の中国への「期待」は裏切られます。08年9月からの危機で、中国は「一人勝ち」状態になった。それで増長し、傲慢に振舞うようになってきた。
2012年、習近平がトップになり、「中国の夢」とか言い始めたとき、ソロスは、「うわ~~~、こりゃダメだ!」と思ったことでしょう。
これまで見てきたように、ソロスは、一党独裁でも「グローバリズム」に逆らわない限り寛容である。しかし、「中国の夢」とか、ナショナリズム全開のスローガンには我慢できないのです。
2016年1月、世界的投機家ジョージ・ソロスは、また爆弾発言をし、世界を仰天させました。
ソロス氏:中国のハードランディングは不可避、株投資は時期尚早(2)
Bloomberg 1月22日(金)9時54分配信
(ブルームバーグ):著名投資家ジョージ・ソロス氏は21日、中国経済がハードランディングに直面しており、こうした状況は世界的なデフレ圧力の一因になるだろうと述べた。同氏はまた、中国情勢を考慮して、自分は米株の下落を見込んだ取引をしていると説明した。ソロス氏はスイス・ダボスでのブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「ハードランディングは事実上不可避だ」と指摘。「私は予想しているのではなく、実際に目にしている」と語った。
これで世界の投資家は、「嗚呼、ソロスは、中国を見捨てたのだ」と判断しました。