4つ目は、トランプ氏の「家業」との利益相反問題です。今回、フロリダで安倍首相が宿泊した「マール・ア・ラーゴ」というのは、トランプ・オーガニゼーションが経営する高級リゾートです。実は、安倍首相はここに「タダで宿泊」しています。
これには理由があって、トランプの大統領就任に伴う「利益相反」回避策の一環として、1月11日の記者会見で発表された「ルール」に従っていると言えます。具体的には、トランプの「家業」であるトランプ・オーガニゼーション社は、基本的にドン・ジュニアとエリックというトランプの二人の息子が経営を承継したわけですが、この企業が外国から利益を供与されてはならないという取り決めがあるのです。
記者会見の際に顧問弁護士が喋っていたのは、外国からの収入は国庫に寄付するという話だったのですが、今回の場合は日本政府がホテルに代金を払って、それがアメリカの国庫に入るというのは、日本側としては妙なことになります。それは、日本の国民の税金がアメリカの国庫に渡るということになるからです。
そこで「無料」という判断が出てきたのでしょうが、そうなると今度は、日本政府が外国の私企業から饗応を受けているということになり、それはそれで問題です。そこを何とかクリアするために、安倍首相としては、前回も今回も「黄金の色をした献上品」を受け取らせてバランスを取っている格好ということが言えます。
ですが、この全体のスキームにはやはり無理があります。本来であれば、仮にフロリダで両首脳が一緒に過ごすにしても、宿泊は「営業用物件」ではなく、トランプ家の個人所有の邸宅にするか、あるいは別の第三者の経営する施設に市価で宿泊するというのが「筋」だったわけです。そこを「ねじ曲げて」いるというのは、後々になって問題になる可能性はあるわけで、注意が必要でしょう。
ちなみに、某日本の渋谷にあるTV局が、今回の日米首脳会談は、1983年に当時のレーガン大統領が来日した際に、中曽根康弘首相の「日の出山荘」に行って、一緒に座禅を組んだわけですが、その際の映像を流して「ロンヤス関係」に匹敵する親密な会談になるというような解説をしていました。
ですが、この「日の出山荘での座禅」については、アメリカ側では余り評判は良くないのです。例えば、2004年にレーガン大統領が死去した際に、このときはブッシュ政権が行き詰まりつつある時期でもあり、レーガンに対しては非常に高い歴史的評価が与えられたのでした。正に聖人と言いますか、偉大なる大統領の死として盛大な葬送がされ、メディアはレーガンへの賛辞で溢れたのでした。
そんな中で、レーガンに関するひとつだけ「問題点」だとして、この83年の「日の出山荘での座禅」が取り上げられていました。つまり、日本という外国から「度を越した饗応を受けた」ということと、「座禅」という「異教徒の宗教儀式に参加した」というのが非難の対象になったのです。座禅への非難というのはムチャクチャですが、中曽根氏サイドとしては「質素で精神的なもてなし」をしたつもりなのでしょうが、お茶を立てたりしたのが「極めて高級感のある饗応で不適切」という印象をメディアには持たれたわけです。
この辺は非常に難しい問題で、トランプ氏本人は「別に良いじゃないか」という人ですが、将来仮にトランプ氏が失脚した場合などを計算するのであれば、余りベタベタするのは危険という問題もあるわけです。その意味で、今回の「親密さアピール」はやや過剰であったということは指摘しておきたいと思うのです。
image by: 首相官邸