創業318年、かつお節の老舗「にんべん」が今も常識を破り続けている

 

広がるダシの可能性~新商品開発で鰹節を守れ

現社長の髙津が入社したのは、バブルが崩壊し売り上げが低迷し始めた1996年。この時、髙津は大きな危機感を感じたと言う。

それは本店に足を運んだ時のこと。店内を見回すと、高齢の常連さんが数えるほど。しかも扱っていたのは値の張る贈答用の商品ばかり。一部の客しか相手にしていない店だったのだ。昔ながらの老舗の商いを目の当たりにして、髙津は「このままでは会社の未来はない」と思った。

現状を打破すべく、髙津は新たな路線を打ち出す。それが若い人にも気軽に手にとってもらえる、これまでなかった家庭用鰹節商品の開発だった。

その中から大ヒットにつながりそうな商品も生まれてきた。その1つが「薫る味だし」(13袋1080円)。中身は出汁パックだが、従来のものとは違う。本枯れの鰹出汁に加え、醤油や砂糖などの天然調味料も入っている。だから、これを入れるだけで簡単にプロ顔負けの料理が作れる。味付けはしなくてもいい、忙しい主婦の味方だ。

パッケージの裏には「チャーハンや雑炊に」とも書いてある。パックの中身を出せばそのまま調味料として使え、美味しいチャーハンができあがる。独自の乾燥法で仕上げているので、香りが飛ばず、風味良く仕上がると言う。

こうした新商品の開発は常に続けられている。

「鰹出汁は出汁パックや液体調味料がほとんどですが、それ以外で鰹節を使った新たな商品を広げていきたいと思っています」(髙津)

新しい時代には新しい食べ方を。あらゆる可能性を探り、鰹節を守ろうとしている。

ライバル企業も感謝~業界を救った世紀の発見

生き残りに必死の鰹節業界で、にんべんは特別な存在になっている。

明治時代から鰹節を作っている、にんべんのライバルに当たる老舗鰹節メーカー、焼津市の「シーラック」。望月洋平社長はにんべんに心から感謝していた。

「にんべんさんがなければ、今の鰹節業界の発展はなかったのではないかと思っています。私どもはその“”を使って商売をさせて頂いておりますので」

埼玉県川口市にあるにんべん研究開発部。その菌はにんべんの自社研究所で特定された。

かつての枯れ節作りは、建物に住み着いているカビ菌が自然に付くのを待っていた。菌は様々で、香りや味もバラバラだった。それを今から35年前、にんべんは枯れ節作りを安定させる優良な鰹節カビの菌の特定に成功したのだ。

最適な菌を探し出したのは研究一筋40年の荻野目望。「当時、研究している人はほとんどいなかった。誰に聞くこともできないので、いろいろな本を読みながら試行錯誤して、まさに地道な作業でした」と言う。いろいろな鰹節の菌を培養し、また吹き付けて結果を見る。これを5年続け、荻野目は答えを出したのだ。

荻野目は、当時社長だった12代当主の元に喜び勇んで報告しに行ったと言う。先代社長はその報告を喜んではくれたのだが、その後、信じられない言葉が返ってきた。

「よく頑張ってくれた。ではすぐに他の会社にも教えてあげなさいお金は取らなくていいから

5年がかりの研究の成果を公表し、ライバル企業にも無料で使えるように指示したのだ。

「正直、びっくりしました。もったいないなと思いました。ただ鰹節の場合、一社が良くても他の会社が変なものを出したら、消費者に『鰹節なんてそんなもの』と思われてしまう」(荻野目)

この懐の深い決断から、それまで多かった枯れ節の不良品が激減。より味のいい、高品質な鰹節が業界全体を通して作られるようになっていった

スタジオで老舗企業が生き延びるために必要なことを問われた髙津はこう答えている。

「そもそも老舗企業だとは思っていません。お客様から認めていただけて初めて老舗なので、お客様に認めていただける存在でいたい。そういったことにチャレンジしていく、そういう姿勢でいたいと思っています」

~村上龍の編集後記~

「鰹節」は、世界一硬い食材らしい。恐ろしく手間がかかる製法で作られる。

近年、冷凍、レトルト、インスタント食品、それに電子レンジなどが開発され、食生活の効率・利便性を飛躍的に向上させた。

だが、代償も少なくなかった。「手間をかけた食材、料理だけが持つ暖かみ」のようなものだ。

「にんべん」は、手間を惜しまない製法に、独自の工夫を加えることで、318年という長い歴史を築いてきた。

わたしは、「にんべんのシンボルマークを見るだけで暖かい気分になる

創業以来の理念と後継者たちの努力が凝縮されているからだろう。 

<出演者略歴>

髙津克幸(たかつ・かつゆき)1970年、東京都生まれ。1993年、青山学院大学卒業後、高島屋入社。1996年、にんべん入社。2009年、代表取締役社長に就任。

 

source:テレビ東京「カンブリア宮殿」

image by: にんべん公式HP

テレビ東京「カンブリア宮殿」

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