創業318年、かつお節の老舗「にんべん」が今も常識を破り続けている

 

違いは品質にあり~客を離さない鰹節の秘密

にんべんが客を離さないもう一つの理由は、鰹節の品質にある。看板商品の「フレッシュパック」は、一般的な削り節と原材料が違う。パッケージの裏には「かつおのかれぶし」と書いてある。この枯れ節こそ、にんべんのこだわりなのだ。

枯れ節はカツオの水揚げ量日本一の静岡県焼津市で作られている。老舗鰹節メーカー「山七」。60年以上に渡ってにんべんの鰹節を作ってきた協力メーカーだ。

捌いたカツオを2ヶ月間、「燻しては乾燥させてを繰り返して作るのが荒節」と呼ばれる鰹節。スーパーなどで売られている削り節の8割にこの荒節が使われている。にんべんがこだわる枯れ節は荒節にさらに手を加えたもの。ポイントは吹きかける「鰹節カビ」。表面についたカビが内部の水分を吸い取り、旨味を濃くしてくれる。

「荒節で22%あった水分量を15%に落とすので、より美味しくなります」(「山七」の鈴木隆社長)

大半の削り節は荒節から作られるが、にんべんの「フレッシュパック」はカビ付けを3回繰り返した枯れ節を使用。これが品質の差を生むのだ。

にんべんの枯れ節はプロの料理人にも認められている

東京新宿区の出汁が売りのしゃぶしゃぶ専門店「出汁しゃぶ おばんざい おかか」では、にんべんの枯れ節の中でも最高峰、本枯れ節を店で削って使っている。

しゃぶしゃぶのベースの出汁は鰹や昆布の合わせ出汁。この店ではさらに、削りたての本枯れ節を入れてくれる。鰹出汁の濃厚な旨味を、これでもかとプラスした出汁になる。

「にんべんさんの枯れ節は雑味が少ない。雑味があるとそれが料理の邪魔をしてしまうので、にんべんさんの枯れ節を使用させて頂いています」(統括マネージャーの齊藤康平さん)

プロも認める品質を守る専門の職人もいる。焼津市のにんべん大井川事業所で、耳と目で鰹節を診断するのは、目利き一筋25年、原料部の塚本辰弥。塚本が太陽光に鰹節を当ててそのシルエットを観察し始めた。内側に隙間ができていると、内部が酸化して味が落ちてしまうと言う。隙間ができる鰹節は全体の2割ほど。目利きして弾く、番人の役割は大きい。

「美味しくなかったら問題外。出すわけにはいかないですね」(塚本)

圧倒的な手間と時間、そしてプロの仕事で、にんべんは信頼の品質を守ってきた。

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家庭の味が変わる~老舗が仕掛ける新戦略

一方でにんべんは、家庭ではほとんど使われなくなった一本物の鰹節を紹介し、その魅力を伝えようと、小学校を回る活動も行なっている。13代当主、髙津克幸は、「昔のように鰹節を毎日、家で削ることが少なくなっているので、鰹節を使う機会や食べていただく機会そのものを作り出さないと厳しいと思います」と、現状に強い危機感を持っていた。

もっと鰹節を美味しいと感じる機会を。そんな思いから髙津が作った店がある。「日本橋だし場」。「だし場」と書いて「だしバー」と読む。

立ち飲みのバーのような店内で客が味わっているのは、味付けしていない鰹の一番出汁一杯100円。好みで塩や醤油を足して味わう。日本初の出汁のスタンドバーだ。

さらに3年前には「日本橋だし場 はなれ」という飲食店もオープンさせた。昼時はいつも満席状態となっている繁盛店だ。

人気メニューの「だしスープ膳 鶏団子のポトフ」(950円)は、お椀に入った鶏団子入りのポトフ。普通ならコンソメを使うところだが、最上級の本枯れ節からとった出汁で仕上げている。

鰹出汁で炊いたご飯にトマトソースやチーズを合わせた「トマト仕立て海老とあさりのドリア」(1200円)はドリア風炊き込みご飯。トマトと鰹の旨味成分が合わさると、相乗効果で美味しさが何倍にもなるという。鰹出汁は和にとどまらず、いろいろな料理に合うことをアピールする場になっている。

さらに鰹出汁料理の食べ方の提案も。「だし炊き込み御膳 鶏とごぼうの炊き込みご飯」(1800円)は、普通に食べても美味しいが、二杯目は鰹出汁をかけてお茶漬け風にするのがお勧め。ちなみに削り節はかけ放題だ。 

「美味しいであったり、楽しくワクワクして笑顔になるような、どなたでも簡単に本物の出汁を味わっていただける場を作りたかったんです」(髙津)

300年以上の歴史を持つ超老舗企業が常識にとらわれず動き始めている

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