安倍首相は2月10日、共同通信社の単独インタビューで、この改正法を成立させなければテロ対策で各国と連携する国際組織犯罪防止条約が締結されず「2020年東京五輪・パラリンピックが開催できない」と語ったが、これはあきらかに詭弁、もしくはウソである。
国際組織犯罪防止条約(パレルモ条約)は2000年11月15日、国際連合総会で採択され、日本も署名し、2003年には国会で承認されたが、いまだに批准にはいたっていない。
同条約はもともとマフィアの組織犯罪を念頭に置いたもので、テロ対策ではない。
しかもこの条約の第34条では「締約国は…自国の国内法の基本原則に従って必要な措置をとる」とされている。国内法の原則、すなわち「既遂処罰」の原則を守ればよいことになっている。けっして共謀罪を強要するものではないのだ。
日本政府はなぜかこの条約批准と共謀罪の創設をセットで考え、過去三度にわたって共謀罪法案の成立をはかってきたのである。
国際組織犯罪防止条約の締結や、オリンピックの開催と、共謀罪新設は何の関係もなく、安倍首相の言うことは、今や世界で憂うべき流行となっているオルタナティブ・ファクト(別の事実)、つまり政治権力サイドの大ウソといえよう。
ふりかえれば、安倍首相はこれまでにも数々のオルタナティブ・ファクトを発してきた。福島原発については「アンダーコントロール」。戦争のできる国づくりのことを「積極的平和主義」。消費増税の約束破りは「新しい判断」…。
政治家のウソ、詭弁は今に始まったことではないが、昨今はどこの先進国でも、それに世論が動かされてしまう傾向があるのは困ったことだ。
共謀罪は、個々人の合意や相談といった、形にならないものを処罰するため、その証拠収集には、捜査機関による盗聴や、メール、SNS等の監視が大手を振って行われる可能性が高い。
また、威力業務妨害罪も対象とされるため、市民や学生らの反政府デモなどにも弾圧が強まるにちがいない。
ときの政治権力が良識に基づいて行使されるのなら、どんな悪法でも怖くはない。しかし、今の政権をみれば、そんな楽観主義は許されないだろう。
戦前の治安維持法は元来、国体や私有財産制度を否定する共産主義運動を取り締まるのが目的だったが、「組織ヲ準備スルコトヲ目的」とする結社などを禁ずる規定があったため、しだいに拡大解釈され、自由主義者など政府の気に入らない人々が次々と犯罪者に仕立て上げられた。
憲法改正をめざし、しだいに国家主義的色彩を強める安倍政権が、秘密保護法を制定し、共謀罪を拡大する法をつくろうとする真の目的は、政府に批判的な言論や市民活動の抑圧にあることはおそらく間違いないであろう。
森友学園などは、偏狭なナショナリズムの蔓延でジワジワ息苦しくなりつつあるこの国の空気から生まれた「鬼っ子」といえるかもしれない。犠牲になるのは将来を託すべき子供たちだ。
image by: 首相官邸