あの頃、俺たちを熱くした「昭和のオモチャ」をオトナ買い(落札)して振り返るシリーズ連載。前回のファミコン用コントローラー「パワーグローブ」に続き、今回ご紹介する懐かしのオモチャは、一大ブームを巻き起こし社会現象にまでなった「たまごっち」。行列に何時間も並んでようやく手に入れた人も、「たまごっち狩り」に遭って怖い思いをした人も、何だかよくわからないのにお世話したくなる「可愛いアイツ」の思い出に浸ってみませんか?
婚約解消の引き金説も…。20年ぶりに発掘!「たまごっち」
まさに化石の卵といったところでしょう。栄枯盛衰を極めたあの「たまごっち」を発掘したのです。
「たまごっち」シリーズは今も続いているオモチャのいちジャンルなので、どういったゲームかというのは説明不要かと思われます。簡単に言うなれば、キャラクターの育成ゲームを携帯型へと落とし込んだ元祖とも言えるでしょう。
初代「たまごっち」は1996年に発売。当時社会現象にまで上り詰めました。発売元はオモチャ界の雄であるバンダイ。発売当初から主に女子高生の間で人気となり、TVをはじめさまざまなメディアを通じて話題に登りました。特に希少価値が高かったのが、ホワイトカラーの白いたまごっちで、このたまごっちを持っていた人物は、総じて周囲の羨望と欲望の目を集めることとなります。
当時高校生だった筆者の周囲でも白に限らずたまごっちは大ブームとなっていました。どのオモチャ屋に行っても手に入らない本当に希少なお宝のたまごです。他人のたまごっちをお願いして強制的かつ長期的に借り受けるというたまごっち狩りなども横行していたように記憶しています。ドラクエ狩り、エアジョーダン狩り、そしてたまごっち狩り。当時、希少なお宝は狩りの対象でした。
そのムーブメントの中で筆者はというと、「流行りモノに流されている奴らはかっこ悪い」と斜に構えるのがカッコいいと思い込んでいた世代であるため、「たまごっち? ふぅん、興味ないね!」と、ムーブメントには敢えて興味の無いふりをしていましたが、誰にもバレないように隣町のオモチャやまで自転車を走らせ、「たまごっち有りますか?」と息を切らして訪ねたという事実があります。
結局たまごっちはブームがやや過ぎ去った頃にゲットし、少しだけ遊んだ記憶があるのですが、具体的にどんなゲームだったのかはすでに記憶にありません。
発掘したたまごっちは息を吹き返すのか?
さて、そんなたまごっちですが、今回発掘されたのは1997年に発売された第2世代の「新種発見!!たまごっち」です。初代たまごっちの発売が1996年11月23日。新種発見!!の発売が1997年の2月1日なので、わずか2ヶ月ほどのスピード展開でした。登場するキャラクターの数も少なく、たまごっちのお世話をするというだけの非常にシンプルなゲーム内容。そして爆発的なヒットも伴い、ハイペースでの更新と増産がバンダイの中での急務となったことが想像されます。
発掘したたまごっち。裏には絶縁テープが挟まっているので、おそらく新品なのではないでしょうか。2世代目とはいえ、未開封で保存されてきたという事実に驚かされます。
思い切って絶縁テープを引き抜くと、謎の茶色い物質が付着しており、分解してみたところ、電池が見事に腐っておりました。そりゃそうですよね20年ものですもの。ひとまず腐食部分を綿棒+アルコールでクリーニング。
新品の電池を入れ替えたところ、見事に起動! 20年ぶりに発掘した化石のようなたまごは、脈動を開始したのです。しかし、ボタンを操作すると、その度リセットがかかります。何度設定を再開しても、エラー音と共にリセット。
生まれては即死する。
いたたまれない無限地獄を繰り返されているたまごを悼みながら、原因を特定しました。やはり電池部です。電池ホルダーの腐食が進み、接触不良を起こしていたのです。やはり20年前のたまごは蘇らないのか?
君は腐ったたまごなんかじゃない。甦れたまごっち!
再び分解し、患部のクリーニングを徹底したところ、すでに電池ホルダーの金属がボロボロになっており、付着した電池液を剥がす過程でポロリと折れてしまいました。これは参りました。今更スペアのたまごっちの端子部パーツなんて手に入りません……。
そこで折れた端子部を削り、はんだで溶接するという手術を行ないました。ミリ単位のパーツを溶接するという作業は今まで行なったことがなく、ブラックジャックの気分がよくわかった体験です。しかし、手術のかいあって、なんとか電池ホルダーを復元することができました(素人作業なので溶接跡は無残です)。果たしてこれで復活できるのか……?
電池をセットしたところ、見事に復活!ボタンを押しても即死することなく、操作できます。しかし、なんとなくたまごの表示がおかしいような気もしますが、時間を設定して育成を開始しました。20年ぶりのたまごっちです!
しばらくお世話していると、やはり何かがおかしいのです。
キャラクターが常に震えており、たまごっちの姿をとどめていません。普通であれば可愛らしいキャラクターが表示されるはずなのですが、画面には「ガクブル震えるナニカ」が居るだけでなのです。ごはんやお菓子を与えても、謎に画面がワチャワチャと動いているだけ。
どうやら久しぶりの起動でバグり、常にクロックアップされた動きになるという奇病にかかってしまったようです。せっかく生まれたのに、神様はなんと残酷なのだろう!
泣く泣くリセット。やっとまともな子が産まれました。こちらを向いてニコニコと動く様子は確かにかわいく、当時の女子高生たちが夢中になる気持ちもわかります。
「お世話」は単純だけど、そのくらいでちょうどいい
たまごっちの「お世話」は簡単。おなかが空いたらご飯をあげて、ご機嫌取りのためにお菓子をあげる。たまに遊んであげたり、うんちをしたら流してあげるといったお世話です。
生まれたばかりのたまごっちは活発で、頻繁にご飯やおやつ、うんちの世話を要求します。それこそ10分おきにピーピー鳴って呼び出され、お世話をしなければならない。思わず子供が生まれた時のことを思い出し、「あぁ…あの頃は大変だったなぁ」と、なんとも感慨深い気持ちにもなります。
そして半日放っておいたら見事にうんちまみれになっていました…。
そしてこの時代のたまごっちにはマナーモードこそあれど、「この時間はお世話できません!」的なスケジュールなどの設定ができないんですよね。ともなると、度々リアルの用事を中断させられてしまいます。この時代にこんな忙しいゲームが出ても絶対売れない(断言)。
なお、たまごっちを触ったことがない。という妻に触らせてみたところ、最初に育て方をスマホでググっていました。現代っ子か!
婚約解消。破談の引き金ともなった「たまごっち」
見事に息を吹き返したたまごっちですが、息を吹き返したのはたまごっちだけではありません。たまごっちを発売していたバンダイもまた、かつてたまごっちによって息を吹き返したのです。
たまごっち発売以前のバンダイは経営不振により、身売り先を探すほど緊迫している状況でした。そして1997年、セガと合併し「株式会社セガバンダイ」とすることが発表されたのですが、なんと土壇場になってこの婚姻は破談となります。その背景のひとつが、このたまごっちの大ヒットだと言われています。
もちろんひとつのオモチャがバカ売れしただけで、倒れかけた経営が持ち直したわけではありませんが、下降していた収益が上向きに転じたことは、合併によるリスクを危惧するバンダイにとって、判を押した婚姻届を破る程の後押しがあったのかもしれません。正確なことは当時のバンダイ経営陣にしかわかりませんけどね。
そんなたまごっちというできの良い子供を生み出すことに成功したバンダイは、この後怒涛の反撃を……。と期待したかったのですが、たまごっちブームの終焉を見極めることができず、大量在庫を抱えることになりました。また、デジタルゲーム部門の不振も大きく、やはり赤字続投だったんですけどね。
その後も紆余曲折あり、現在はナムコと共同で持株会社を設立し経営統合。「バンダイナムコホールディングス」の子会社となっています。もしあの時、たまごっちという隠し子が生まれず、セガと結ばれていたら……。ひょっとしたらオモチャ業界はもう少し違う未来を辿っていたのかもしれません。
現代のたまごっちは?
オモチャに歴史あり、携帯育成ゲームのムーブメントを作り上げたたまごっちは、現在「Tamagotchi m!x(http://tamagotch.channel.or.jp/tamagotchi/)」として二種交配や通信機能が搭載されました。メインターゲーットは子供ですが、子供と一緒に当時を懐かしむ大人も一緒になって楽しんでいるという声も多く聞きます。
さらに2017年4月には、「かえってきた!ちびたまごっち」としてなんと初代たまごっちの復刻版とも言えるリメイク作が新発売することが決定したのです!
20年経っても変わらぬ味がある。当時たまごっちを遊んだ方、遊べなかった方はこれを期に触ってみるのも良いかもしれません。ただ、産まれたては本当にうるさいですよ!
image by: Photo AC