応募者全員を社員にし、元喫茶店を手作りオフィスに変える。商談したり電話をかけたりする相手だってほしい。社員を二つにわけて片方を別会社の「株式会社得意先」にした。すべてを知り尽くした熱心な会社信奉者ばかりで、全員本物より本物らしくしようと夢中で働く。やがて支社も次々に設立される。
主人公の息子の恋人が有能なマーケッターで、このフェイク会社ムーブメントを画期的高齢者福祉事業だと見立てる。次世代への提言者になるという意義ある役割が、高齢者に与えられる。となれば高齢者にとって、これほどの生きがいはないし、メンタルケア、老いに直面した彼らの生きる励みにもなる。
フェイク会社はいわば高齢者に向けたアミューズメント産業、娯楽ヒーリング空間でもある。じつのところ左前店主救済事業そのものじゃないか、と見抜いたのが息子で、フェイク会社のフランチャイズ事業を企画し……、というわけでフェイクが生臭い話になっていき、やがて……。団塊の世代が定年を迎えるころを想定した話かもしれないが、物語が生まれたのはそれよりずっと前。文庫版では大幅に加筆、再編集したとある。どう変わったか、確認はしていない。面白かったがピンとこない、団塊より少し上のわたしであった。
編集長 柴田忠男
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