東京にも進出。新潟発の「非効率すぎる」ファミレスが愛される理由

 

TX170309_2200_PR002

大手のマネはしない~決断を下した親子の物語

しかし、実際にオープンしてみると、やって来たのは流行に敏感な若者やニューファミリーばかり。3世代のお客はほとんど来なかった。計画ほど売り上げも伸びず、苦戦した。

そこで行宏が呼び寄せたのが、東京の大手ファミレスで修業していた息子の博信だった。1987年に入社した博信は、店を見て驚いたという。

「例えば味噌ラーメンが『リトルトーキョー』みたいな名前だったり、ちょっとハイカラすぎる店でした」

そこで二人は決断を下す。それは「家族3世代の客が来てくれる店に戻そう」という原点回帰だった。

まず店舗を改装して小上がりや座敷を作り、名前も三宝に戻した。すると1号店、2号店同様、地域のお客が来てくれるようになった。この時の出来事は、のちに社長となる金子に大きな教訓を残す。

「やはり一生に一度付き合ってもらえればいい商売とは違い、年に何回も繰り返し来ていただかなくてはならない商売。新潟の小さな町でスタートしたので、お客様に得をした気持ちになって帰ってもらわないといけない

とにかく地元客からの信用を得ようと原料から見直したものもある。例えば白菜。三宝の白菜は契約農家に作ってもらっている。重さは普通の白菜の2倍。ただ大きいだけではなく、一番の特徴が厚さ。これが美味しさを生む。「食感ですね。厚いと美味しく、薄いとペラペラして葉っぱっぽく感じてしまう」と、生産者の本間博明さんは言う。 

厚みのある大きな白菜をつくるため、栽培する間隔を通常の2倍とって育てている。

「お客様にこんなことまでやっているということは伝わっていませんが、美味しい白菜を作ることを優先している」(本間さん)

さらに普通のファミレスにはないサービスも。三宝には団体用の宴会プランがあり、ボリューム満点のコースメニューが1人2,500円から味わえる。希望する場所まで来てくれる無料新潟市内の送迎バスもある

黒字店も潰す~社員を育てる独自支援

この日、店舗回りをする金子が訪ねたのはラーメンの専門店「三宝亭」山田店。今や8つの県で34店舗を展開、グループの中でも成長著しい業態だ。

金子はすぐさま厨房へ。会話しながら従業員の顔を見ていく。店舗回りの目的は、業績よりも従業員が元気かどうかをチェックすることにある。こんなことをしているのも、ある目標を掲げているからだ。それは「どんなことがあっても潰れない会社を作りたい」(金子)ということだ。

その目標に近づくため、金子は去年、2軒の店を閉店した。その店にお客が来なかったわけではない。金子が閉店した店の年間収支を見せてくれた。資料によれば利益は400万円以上。黒字の店だった。

黒字ではあったけれど労働環境を改善していくという強いメッセージを込めたつもりではあるんです」(金子)

閉店した店にいた、現在は赤道錦町店店長の田村大地は、以前の状況を、「他のお店の人にヘルプで来てもらっても、まかないきれない状況に陥っていたんだと思います」と語る。

慢性的な人材不足に悩む外食業界。三宝も例外ではなかった。そこで状況を改善しようと2店舗を閉め、働いていた人たちを他の店に回したのだ。

さらに午後は通し営業だったのを改め、閉店時間も1時間早めた。営業時間を合計2時間半短縮し従業員の負担を減らした

「やはり家族や子どもと過ごす時間が増えて、私にとっては嬉しいことでした」(田村)

さらにパート社員のやる気を引き出す取り組みも。閉店した店舗で行われていたのはチャーハン作りのトレーニング。三宝ではチャーハンなどを作るのに社内資格が必要だが、パート社員でも取得できるように変えたのだ。試験に合格し資格を取れば時給が30円アップ。実際にチャーハンを作ればさらに特別手当てが出るという。

長岡寺島店のパート社員、佐野優奈はステップアップしようと半年に渡ってトレーニングを積んできた。この時間も時給が出る。

「キッチンで実際に料理を作って提供する姿にすごく憧れがあって、今回こそは受かりたいです」(佐野)

試験当日。社長が手際を見つめる中で、佐野は集中して鍋を振った。結果は見事、合格。パート社員がここまでやる気を出す会社は強いに決まっている。

外食をなんとか夢のある仕事にしたい。それを現実にすべく金子は新たな取り組みをスタートさせた。自己資金ゼロでも独立できる社員の独立支援だ。

その第1号が入社8年目の「さんぽう亭」五泉店店長、渡辺貴幸だ。「自分の夢に向けて動けるという期待感で、募集があった時点ですぐに手を上げました」と言う。

店の設計からメニュー作りまで三宝がバックアップ。準備期間も給料を払うと言う。気になる開店資金も三宝が1,000万円まで無担保で貸し付ける

「本当に助かります。ここまでしてもらえること自体、幸せです」(渡辺)

夢が社員のやる気を引き出し潰れない会社を作る。プラス思考の取り組みは始まったばかりだ。

print
いま読まれてます

  • 東京にも進出。新潟発の「非効率すぎる」ファミレスが愛される理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け