日本のマスコミが報じようともしない中国軍事パレード「3つの意味」

 

習近平の軍掌握を誇示

Q:今回の軍事パレードには、どんな意味や意義がありますか?

小川:「第1は、国の内外習近平体制揺るぎないことを示した点です。第2は、中国人民解放軍が『接近阻止・領域拒否』(Anti-Access/Area Denial=A2/AD)戦略を念頭に、着実軍事力整備を進めていることを示しました。第3は、30万人の兵力削減を謳い、中国平和主義アピールした点です」

「中国の軍事パレードは、こうした意味を含んでおり、当メルマガでお伝えしたロシアの5月の軍事パレードと比べても、きわめてメッセージ性が強いものです。第1~第3のポイントをまとめれば、9月の軍事パレードは、中国が進める三戦(世論戦・心理戦・法律戦)の集大成ともいえるでしょう」

第1の意味を、さらに詳しく考えていきましょう。習近平国家主席に就任したのは2013年3月14日で、各国の一院制国会にあたる全国人民代表大会(全人代)第1回会議で選出されました。同時に中国中央軍事委員会主席にも選出されています。実は習近平は、これ以前の2012年11月、中国共産党大会で党中央委員会総書記(党首にあたる)と党中央軍事委員会主席(人民解放軍の最高司令官)に選出されています。事実上、習近平が中国の最高指導者になったのは、このときです。すべてを共産党が『領導』する中国では、党のほうが国よりも上なのです」

「ところで、中国は現在こそ国家主席が党総書記と党軍事委主席を兼ねていますが、権力闘争熾烈だった昔は、そうなっていませんでした。役職と権力の所在が必ずしも一致せず、権力は属人的なものとされ、法治主義ではなく人治主義まかり通っていたのです。当時の典型的な人物が1978年に改革開放を唱えて市場主義を導入した鄧小平で、彼は国家主席にも党中央委員会総書記にも就任したことがありません。ただし、軍部の掌握こそが権力の源泉と考え、73~80年に中国人民解放軍総参謀長、81~89年に共産党中央軍事委員会主席と、鄧小平は軍トップの地位だけは手放しませんでした」

「そんな中国では、軍のトップであると見せつけることが、特別な意味を持ちます。習近平が国家主席に就任した直後は、権力基盤がまだ盤石ではないとされ、対日強硬路線や党幹部の汚職摘発などは権力固めの一環だ、という見方がありました。その段階はとっくに終わっていて、習近平の権力基盤は揺るぎないのだ、と示すには、軍事パレードは絶好の機会だったのです」

「ですから今回その機会をとらえて、国内的には、権力闘争を仕掛けようとしてもムダだ、国民が不平不満を述べ立てようが体制は揺るがないことを示し、同時に国際社会に対しても、中国指導部に権力闘争による混乱などない、中国は安定している、と示したわけです」

「特筆すべきは、ふだんパレードに出たりしない将軍や提督をかり出したことです。陸・海・空軍、第2砲兵(戦略ミサイル部隊)、武装警察の中将5人を、5台が横一線に並んだオープンカーに立たせました。50代をすぎた将軍・提督たちの多くは、身体がなまったり、あちこち痛いところがあったりするのですが、それをかり出して訓練し、もっとも見栄えのよい5人を選んだのです」

「部隊の先頭車両に乗った指揮官を、部隊ごとに大写しにしたことにも、意味があります。2人並んだ右側が本来の軍の指揮官、左側が同じ階級の政治委員です。右の号令で2人が同時に敬礼をしていましたが、部隊に必ず政治委員が配属されている姿を見せることは、中国共産党流の『シビリアン・コントロール』が貫徹されていることを、これまた国内外に示した訳です」

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DF-21D対艦弾道ミサイル部隊の指揮官と政治委員(上記映像「その2」23分18秒目)

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