犬に13発も発砲した警官ではテロなど防げない…軍事アナリストが警告

 

そこで、なぜ紀州犬射殺事件がテロ対策に結びつくのかということですが、まず3人の警察官が13発も撃って6~8発しか命中させられなかったという、日本の警察官の射撃に関する技量の低さが浮き彫りになったからです。

松戸警察署の3人の警察官の技量は、おそらく日本の警察官の平均的な技量と考えてよいと思います。このレベルの警察官が、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの雑踏の中でテロリストと銃撃戦になったら、市民が巻き添えになるのは避けられないと考えるべきでしょう。

そんな事態を避けるには、少なくとも米国の警察官なみに射撃訓練を重ねる、要するに撃ちまくっていなければなりません。私も陸上自衛隊の末端(陸上自衛隊生徒)でライフル、軽機関銃、重機関銃、対戦車ロケットなどの基本的な訓練を受け、射撃は得意だったというのが、ささやかな自慢ですが、とにかく日本の場合、自衛隊も警察も、極端といってよいほど射撃訓練がお粗末なのです。

そんなこともあり、2004年に陸上自衛隊を復興支援のためにイラクのサマワに派遣するとき、当時の第2師団長の河野芳久陸将は「普通の自衛官一生かかっても撃つことのない弾数派遣前の訓練で撃たせた」といっていました。激しい戦闘では1日で付着する火薬カスのために銃が作動不良になるそうですが、派遣前の射撃訓練では、そのレベルまで達しなかったそうです。

第2の懸念は警察官が携行している拳銃の威力です。

今回の事件では、おそらくニューナンブM60(ミネベア製)が使われたと思われます。この拳銃は1960年に採用され、1999年に製造を終了していますが、今なお日本の警察の主力拳銃の座にあります。米国のスミス・アンド・ウェッソン(S&W)のM36をモデルにした38口径(9ミリ)の拳銃で、有効射程距離は50メートル。上級の射手が撃った場合、25メートル離れて直径5センチの円内に弾丸を集めることが可能とされています。1挺のニューナンブには5発が装填されています。

もちろん、熟練した射手ならニューナンブでも1発で相手に致命傷を与えることは間違いないでしょうが、問題は平均的な警察官です。6~8発が当たってやっと紀州犬を倒すことができたということは、うまく頭部に命中させることができなければ、衣服の下に拳銃用の軽量の防弾ベストを着けた相手には歯が立たないということです。38口径の拳銃弾は、それくらいの威力しかないことも知っておく必要があります。テロリストは、日本の警察官など意に介さないで堂々と犯行に及び、場合によっては警察官に向かってくるかもしれないのです。

陸上自衛隊の特殊作戦群や警察のSATといった特殊部隊はともかく、平均的な警察官の能力を高める手立てはただひとつ、撃って、撃って、撃って、撃ちまくって、射撃の腕前を高めることしかありません。

さらに、ニューナンブや更新中の拳銃に.357マグナム弾を使用できるようにするか、さらに威力の高い拳銃を装備すれば、それなりの対テロ能力の向上を期待できると思います。マグナムなどというとダーティーハリーの映画を思い浮かべる向きもあると思いますが、あんな大型マグナム(.44マグナム)はともかく、米国のハイウェーパトロールの交通警官でも.357マグナムを持っているのですから、日本の警察も考えてみてもよいのではないかと思います。

image by: Shutterstock

 

『NEWSを疑え!』第429号より一部抜粋

著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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