【科学政策】国はあぶれた研究者を救ってはいけない

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『堀川大樹メールマガジン「むしマガ」』第266号(2014年12月17日号)

 

★むしコラム「各党の科学政策に思うこと」

☆────各党の科学政策

近畿大学の榎木英介さんが各党に科学政策について公開質問をしていました。これはなかなか貴重な資料です。

☆科学技術を重視する党は?公開質問状に対する各党の回答

科学技術をどんな方向性で発展させていくのか、という部分については、各党で多少の違いはあるものの、どの党もあまり変なことは言っていません。けっこうまとも。ベンチャー企業を支援して若手研究者の雇用を増やし、余剰博士問題の解決を図ると回答しているところもあります。アカデミアでの不安定な任期付きポジションを減らして終身雇用のポジションを多くつくるとか、科学コミュニケーターの育成にも力を入れるとか。何だか至れり尽くせりなことを言っています。

逆にいえば、要するに、科学の現場にいる人間にとって耳障りのよいことしか言ってない。でも現実はどうかというと、アカデミアには明らかに人材が過剰になっている。個人的には、このまま雇用機会も減らさざるをえないと思っています。そして、各党とも実際には効果的な具体策や、それを実現するための財源もないことは分かっているように思えて仕方がない。本音を隠しているか、理想だけを語っているように感じるわけです。

 

☆────対案

じゃあ対案を出せ、という声が聞こえてきそうなので、アカデミア政策でこれだけは大事だと思うことを二つ挙げます。

ひとつは、研究成果を出さなくなった終身雇用研究者を降格・減給にする制度をつくることです。数年間の猶予を与えても成果を出すそぶりがなければ、解雇。これで、老害的な大学教授などを減らし、空いたポジションに有能な研究者をあてがうことができるようになります。

余談ですが、若手研究者支援を謳って文科省に文句を言っている教授自身が全然研究成果を出さず、自分のポジションを後進に譲らなかったりする場合がよくあります。身をもって、優秀な若手研究者を支援してほしいところなのですが。

さて、その逆に、定年近くになっても研究成果を出し続ける有能な研究者に限っては定年を5年単位で延長するような措置を実施。このような施策によって、日本のアカデミア全体の活性上昇が促されるはずです。

ふたつめは、余剰博士問題を完全に切り捨てることです。余剰博士を政府が救済しようなどという活動は一切中止します。このような余剰博士をいったん支援し続けると、次から次へと出てくる余剰博士の世話を政府がし続けなければならなくなり、予算も垂れ流し続けなければならなくなります。企業と博士のマッチングの場を国がつくるのはよいかもしれないけれど、これだって民間でできるはず。

「余剰博士が出たのは国のポスドク一万人計画のせいだから、国が責任をとるべき」というのは一理ありますが、逆にいえば「本来は大学院で教育を受けられなかったはずの人間が高等教育を受けるチャンスをもらえた」わけです。そして、その大学院教育には税金も使われている。僕自身も、この恩恵にあずかれた一人です。

なのに、中には「税金で育ててきた人材なのだから、さらに税金を投入して支援すべきだ」なんて言う人もいます。僕なんかは、すでに税金でよい思いをしてきたわけで、そこからさらに税金でサポートしてくれなんて、とても言えません。

そもそも、税金で育てた人材にはずっと税金でサポートしなければならないのであれば、国公立大学の学部卒でフリーターやニートになっているような人にも支援をしなければならなりません。というか、数の上でいえばこちらのほうが余剰博士よりもはるかに多いでしょう。

余剰博士たちは自分たちが享受した高等教育によって、何らかの形で社会にアウトプットするように努めるのが道理なのです。あと、科学コミュニケーター育成に多額の税金を投入するのもかなりビミョですね。これまでも、科学コミュニケーター養成事業から目立った人材は出てきていませんし・・・。

つい昨日は大学院生時代の研究室の同窓会だったんですが、僕以外でアカデミアに残っている4人全員が任期付のポスドクでした。全員30代半ばです。身近な友人たちにも当事者が数多くいるわけですが、私情は抜きにしてマクロな視点から科学政策を考えたときには、余剰博士の支援はしないにこしたことはない。

人気取りとかじゃなく、こういうことをきちんと公言するような政党や候補者がいれば、迷わず投票するんですけどね。でも、本当にこういうことを言う候補者がいたら、アカデミアの人々やアカデミアファンからは支持されないだろうなぁ。このジレンマ自体が、民主主義にのっとった選挙システムの構造的問題をはらんでいますね。

 

『堀川大樹メールマガジン「むしマガ」』第266号(2014年12月17日号)

著者/堀川大樹(クマムシ研究者)
北海道大学大学院で博士号を取得後、2008年から2010年までNASAエームズ研究所にてクマムシの宇宙生物学研究に従事。真空でも死なないクマムシの生態を解き明かしたことで、一躍有名研究者に。2011年からはパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所に所属。著書に『クマムシ博士の「最強生物学」講座』(新潮社)。人気ブログ「むしブロ」では主にライフサイエンスの話題を提供中。
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