中国と米国がガチで貿易戦争したら、悲鳴を上げるのはどっちだ?

 

一方、世界2位の鉄鋼消費国はアメリカです。2018年のアメリカの予想鉄鋼需要は1億1,000万トンと見込まれています。アメリカの年間鉄鋼生産量は8,164万トン(2017年)ですから、約3,000万トン分を自国で生産するか輸入すればいいことになります。そして、輸入先は中国以外にも数多くあります。中国の不当廉売によって被害を受けている他国から鉄鋼を買えばいいだけです。すでに鉄鋼価格は世界的に低下していましたから、中国製鉄鋼に関税をかけたからといって、鉄鋼価格の上昇によるインフラ懸念も少ないはずです。

一方、中国が報復措置として輸入制限をかけた128のアメリカ産品のうち、代表的なものが豚肉と大豆です。

中国は豚肉消費量においても生産量においても世界1位ですが、近年では豚飼養頭数が減り、生産量が消費量を下回っているため、輸入に頼ってきました。2016年には162万トンを輸入に頼っていますが、アメリカからはその8分の1にあたる21万トンを輸入しています。輸入先の1位はドイツ、2位がスペインで、アメリカは3位にすぎません。

需要動向 海外 中国 2017年、生産量が減少し輸入は増加する見込み

しかもアメリカの豚肉生産量は1,132万トン(2016年)であり、そのうちの21万トンというのは、アメリカ国内生産の2%にも満たない数量です。

アメリカにとってはさほどの打撃にならない一方、むしろ中国にとっては大きな打撃になる可能性が高いでしょう。というのも、食料価格の高騰は人民の不満につながるからです。シカゴ大学の趙鼎新教授は、1989年の天安門事件は食料品価格の急騰が発端だったと分析しています。中東で起きたジャスミン革命も、食料価格の高騰が原因でした。

中国政府が「豚肉」の価格を警戒すべき理由

また、大豆についてはたしかにアメリカが世界の生産量1位で、1億トンを生産しているため、アメリカ農家も中国の輸入規制を非常に警戒しています。しかし、一方の中国は1,100万トンの生産しかないにもかかわらず、消費量は9,500万トンで、8,400万トンを輸入に頼らざるをえない状況なのです。

特集1 大豆

アメリカからの輸入大豆は中国での流通量の3分の1を占めているとされています。中国がこれほど大豆を必要とする理由は、搾油用に加えて、家畜飼料のためです。しかも、2018年の生産量は、アメリカでは増産見込みであるものの、アルゼンチンやブラジルなどでは減産が見込まれ、世界全体では減少すると見込まれています。一方、消費は中国をはじめとする世界全体で増加すると見込まれています。

米国農務省穀物等需給報告(2018年2月8日発表のポイント)

そのため、中国がアメリカからの大豆を輸入規制すれば、中国国内での需要に供給が追いつかず、大豆の価格高騰さらには豚肉などの畜産物の価格高騰につながる可能性が非常に高いと言えます。

対米最強の武器にジレンマ 中国、大豆輸入制限なら豚肉高騰も

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