昭恵夫人と保育所ビジネス会長を結ぶ、特区と「お友達」の点と線

 

実際、中村氏は安倍政権の「待機児童解消加速化プラン」「女性活躍社会」という政策にうまく乗っていった。

テレビ朝日のアナウンサーをやめたあと、株式会社ポピンズを設立して、株式会社立の認可保育所を横浜に立ち上げた中村氏だが、社会福祉法人に手厚い補助をする厚労省の岩盤規制に苦しめられてきた。格差の一例をあげよう。

認可保育所のうち公立をのぞくほとんどの運営主体は社会福祉法人である。社会福祉法人だと、たとえば2億円の建設費がかかるなら90%近い1億7,500万円の公的補助金が出るうえに、足りない分は厚労省管轄の医療福祉機構の低利融資が受けられる。ところが、株式会社やNPOには一銭も出ない。社会福祉法人はほぼ全ての税が免除されているが、株式会社やNPOにはそんな恩典はない

せめて100%が保育士の国家資格を持っていなければならないという認可保育所の規制を緩めてもらえないか。そうなれば、スタッフ不足が解消され、人件費も抑えられて、会社の利益が増える

そう考えた中村氏が政治に近づく手がかりとしてまず目をつけたのが「女性活躍社会」なる看板政策だった。それにタイミングを合わせて女性経営者の交流団体「JAFE」を立ち上げると、招請に応じて安倍首相が会場に現れたのだ。狙い通りだった。

ここから官邸とのパイプができ、昭恵夫人との交流が始まり内閣府の規制緩和や特区の担当者とつながりができた。加計学園から公務員倫理に反するもてなしを受けたのではないかと疑惑をもたれている藤原豊地方創生推進室次長(当時)もその一人だ。

国家戦略特区の事業を審議する諮問会議ワーキンググループの司会役をつとめる藤原次長の紹介で、中村氏は2014年9月26日のワーキンググループ会合に出席し、保育所についての特区提案にこぎつけた。

そのさい、中村氏が主として論じたのは、認可保育所の100%保育士という規制を60%ていどに緩和し、あとの40%は、幼稚園教諭の免許を持つ人や音楽、体操の先生らを入れた方が保護者のニーズにも応えられるのではないかということだった。

認可保育所とは100%保育士のほか、こども一人あたりの保育室の広さが3.3平方メートルなど、国の「最低基準」を満たし、都道府県知事に認可された施設をさす。

認可外保育所は、都道府県知事から認可を受けていない施設で、東京都の「認証保育所」や川崎市の「認定保育所」から「ベビーホテル」「託児所」「保育室」まで含まれる。

中村氏は各地方自治体が行う年1回の保育士国家試験を複数回に増やすことで、保育士不足を解消してほしいとも訴えた。

中村氏の提案もあって、内閣府は自治体が管轄する既存の認可保育所とは別に、同様の手厚い補助が受けられる新しい保育所の形を考え出した。2016年4月からスタートした「企業主導型保育事業」がそれだ。

管轄するのは自治体ではなく、内閣府の外郭団体児童育成協会」だ。助成金額は、たとえば東京23区内の定員12人の施設だと、一施設あたり年間約2,600万円が基本額として支給される。その他さまざまな加算がある。内装工事費用も、4分の3(最大8,000万円)が助成される。

企業が自ら事業所内保育施設を設置する場合や、中村氏の会社のような事業者が設置する保育施設を企業が活用するケースなどがある。

保護者が勤務先に企業主導型保育の利用申請書を提出し、勤務先がハンコを押せば、契約が成立し、企業主導型保育となる。保護者の負担金も安く保育施設の運営事業者にとってもメリットが大きい

中村氏は企業主導型保育事業として保育所を設置していくことにより、国の手厚い補助を受けられる仕組みを手に入れたわけだ。しかも、この事業では特例的に保育士100%の配置基準が規制緩和され、パート保育士や幼稚園教諭らでも代替できることになった。

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