なぜ今、誰も「アベノミクス」という言葉を口にしなくなったのか

 

マネーはどこへ行ったのか?

第3に、それにしても「異次元緩和」で日銀が繰り出したマネーは一体どこへ行ったのか。どこへも行かず、ほとんど日銀構内から外へ出ていないというのが事の本質である。


         13年3月 →→→ 18年6月
マネタリーベース 138兆円     503兆(+365兆)
日銀の国債保有高 165兆      425兆(+260兆)
日銀当座預金    47兆      385兆(+338兆)
銀行預貸ギャップ 214兆      278兆(+ 64兆)
企業内部留保   306兆      417兆(+111兆)
ETF保有残高    1.4兆      17.2兆(+15.8兆)


確かに日銀はマネーの供給を激増させたが、それをいきなり空からバラ撒くことなど出来るはずもなく、国債を購入することを通じて世の中に染み渡らせようとする。しかし、自ら直接に債券市場で購入することは出来ないので、民間銀行など金融機関が保有する国債を買い上げて、その代金を、各銀行が日銀内に設けている日銀当座預金に振り込む。日銀が増やしたマネーは主に国債購入に向かい、そのため日銀は国債発行残高の4割以上をも抱え込み、その結果として民間銀行が日銀内に持つ当座預金もマネタリーベースの増加とほぼ並行して増加して385 兆円となった、という訳である。

日銀当座預金はゼロ金利ないし一部は逆金利なので、置いておいても得にならないどころか損になる場合もあるので、各銀行は急いで引き出して貸出などに回すだろうと想定されていたのだが、案に相違して各銀行は一向に引き出さず、そこにマネーがジャバジャバに貯まってしまったというのが、385兆円という数字である。なぜなら、日本経済は全体として人口減少=需要減退基調に入っていて、旺盛な資金需要に乏しく、多少なりともあったとしても大企業はみな内部留保の形で借り入れせずとも投資に回せるマネーを持っているし、銀行も貸出よりも預金が上回る傾向が長く続いていて、日銀当座預金を取り崩さなければならない理由がないからである。

もちろん、銀行が成熟時代の質的充実に狙いを絞って人々の知恵に向かってリスクを賭けて貸出をするノウハウを蓄えていれば、実はいくらでも貸出先はある。しかし日本の銀行は明治から150年、土地担保でしか金を貸したことがなく、それがバブル崩壊による不良債権の山となって死ぬほどの思いをした後には、はっきり言って、どうやって金を貸したらいいのか分からないでいるのである。

こうして、この期に及んでまだ「成長を目指して金融政策を動かそうとする政府の発展途上国型の発想と、それで金余りになってもダイナミックな先進国型の投融資のノウハウを持たない銀行の発展途上国型の体質とが相俟って、せっかくの異次元緩和にもかかわらず、この国の経済にはほとんど何も起きなかったのである。

それでも何とか景気の落ち込みは回避されているじゃないかと思うかも知れないが、それは、異次元緩和当初のショック療法による株高と円安の効果を持続させるために、官邸主導で為替、株式、債券の3市場を事実上の“国家管理”下において操作しているからで、こんな中国も顔負けの社会主義市場経済的なやり方は、そういつまでも続かないのではないか。

image by: 首相官邸 - Home | Facebook

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2018年7月9日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分税込864円)。

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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