行列、パクリ、下克上。スイーツの聖地・原宿アイス戦争の舞台裏

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連日、「酷暑」とも言うべき厳しい暑さに見舞われている日本列島。そんな中、東京・原宿で酷暑に負けずとも劣らぬ熱い熱い「アイス戦争」が繰り広げられていることをご存知でしょうか? フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんは今回、スイーツの聖地・原宿のアイス商戦における各店の戦略・戦術を紹介し、徹底分析しています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

酷暑にヒートアップする「原宿アイス戦争」が今アツい!

残暑となっても、日本列島では気温40℃に迫る高温を各地で記録するなど、猛暑が続いているが、それにもまして熱いのが、スイーツの聖地・原宿のアイス商戦だ。

特に行列の長い3強は、ロールアイスのロールアイスクリームファクトリー」、台湾かき氷アイスモンスター」、韓国かき氷ソルビン」である。個性豊かな原宿の3大氷菓の動向と、3強にあやかってビジネスを拡大しようとする追従者たちの現状をレポートする。

最長5時間待ちの「ロールアイスクリームファクトリー」

行列の絶えないパンケーキで有名な「エッグスンシングス」のすぐ近く、裏原宿と呼ばれるおしゃれな洋服や雑貨の店が立ち並ぶ一角に、連日長蛇の列をつくる店がある。最長で5時間待ちとなった。ニューヨークで人気のロールアイスクリームを、日本で初めて販売した「ロールアイスクリームファクトリー」だ。

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ロールアイスクリームファクトリーの店外にできる長い行列

ロールアイスはタイの屋台を発祥とし、数年前にチャイニーズ系、コリアン系の店主たちが中心になって始めて米国でブレイクした。マイナス10℃以下の鉄板で、お好み焼で使うようなヘラでいちごなどのフルーツ、クッキー、チョコレートなどといった素材を潰しアイスクリームと混ぜ合わせてくるくると巻いてカップに盛り付けていく。とてもかわいらしい、女性受けしそうなスイーツである。

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日本の外食では「丸亀製麺」、「磯丸水産」、「塚田農場」のようにあたかも生産・加工場のごとき店名の店が高い知名度を獲得するケースが多いが、「ロールアイスクリームファクトリー」もそのセオリーに則っている。

オープンは2017年6月で、1年2ヶ月が経ったが行列の長さは衰える気配がない。同店を経営するSomething NEW(本社・東京都渋谷区)の浅野まり社長によると、1ヶ月あたりの来店数は1万人ほどで、1人当たりの顧客単価は970円

現在のところ、原宿、大阪の道頓堀、大阪府堺市のイオンモール堺北花田、名古屋のラシックと4店を展開。年内に沖縄県那覇市内に5店目がオープン予定となっている。1店あたりの売上は原宿の本店が若干良いが、どの店も同程度だそうだ。

顧客層は店によって異なり、原宿店は平日には中高生、休日はファミリー、夜は欧米からの外国人が多い。道頓堀店は中高生や観光客、中国、韓国、台湾、香港、インド、中東などアジアからのインバウンドの顧客が多くインターナショナルである。イオンモール堺北花田店は小さい子供を連れた若い夫婦が多く、おばあちゃん同士、おじいちゃん一人で来店するケースも目立つ。

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ロールアイスクリームファクトリー店内の様子

若い女性のインスタ投稿狙いに特化した店に見えるが、実際の顧客は幅広く大衆性のある店となっているのが特徴。インスタ映えだけでは、ショッピングモールで成り立たない。

アイスクリームの専門店は案外少なくて、全国的なのはサーティワンくらい。他にないからチャンスはあると思っています」と、マーケットを見て起業したと浅野氏は強調した。

実はアイスクリームは近年、年間商品化している成長市場で、一般社団法人日本アイスクリーム協会によれば17年の日本の市場規模は5,114億円。08年の3,845億円に比べれば約10年間で30%以上伸びているのだ。それなのに専門店があまりなかったというのが、大きなポイント。右肩下がりの居酒屋などに比べれば、はるかにブルーオーシャンだ。

 

浅野氏は元々外食専門の広報をアウトソーシングで受ける専門家で、最初は自分でお店を経営する意思はなかったという。企業広報という仕事をしていると、最新のトレンド情報があれこれ耳に入ってくる。米国でロールアイスが流行っていると聞きつけ、YouTubeに投稿された動画を見ているうちに、自分の目で見て確かめたくなり、ニューヨークに飛んで人気店を幾つか視察してまわった。

実際に行ってみると、男性が雑につくって盛り付けていたり、裏の厨房で仕上げるからどうやってつくるのかがわからなかったり、トッピングの数も少なかったりと、エンターテインメント性、ファッション性で改善の余地があることがわかってきた。

浅野氏は外食の経営者たちに、視察の成果を踏まえて出店を提案したが、回答は一様に否定的だった。ロールアイスを完成させるのに6、7分掛かるので、効率が悪く儲からないというのがその理由だった。しかし、浅野氏は諦めず、自ら出店する方向に転換して、自宅で試作を繰り返した。そうしてできたのが「ロールアイスクリームファクトリー」である。商品は全て浅野氏によって生みだされている

ロールアイスクリームファクトリー作成風景 copy

イメージキャラクターのシロクマをモチーフにした「くるくるアイスのシロくん」は、「ランサーズ」という仕事依頼コンペサイトで募集して、約60件の応募作品の中から選んだ。ゆるくて涼しい感じが決め手となった。

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