行列に並ぶことから始まるエンターテイメント
ベースのアイスのフレーバーがバニラ、ストロベリーなど4種類、季節のフレーバーが1、2種類。アイスに混ぜ合わせるミックスインの素材が20種類。トッピングが40種類。上から掛けるソースが12種類となっている。顧客は自分好みのアイスを、スタッフにオーダーして、その場でつくってもらえるのが魅力だ。
全部自由に選ぶのが難しい人には、決められたプリフィックスのリコメンドメニューが10種類あり、「クッキーモンスター」、「ストロベリースターダスト」などが人気。初めて来店した人はこちらから注文する人が多い。2回目からのリピーターは、全部の組み合わせを自分で決める人が多くなるという。
かつて浅野氏は「俺のフレンチ」、「俺のイタリアン」などを展開する俺の株式会社にて、広報の責任者であった経歴がある。俺の系列の店では、凄腕のシェフたちが料理をつくる過程をオープンキッチンで見せてエンターテインメント化に成功、大行列をつくり出した。原価率が高く、本格フレンチのような調理に時間が掛かり効率の悪い業態でも、立ち食いにして集客を上げ回転率を高めれば儲かる。これは「いきなり!ステーキ」でも実践されて結果を出した、安田道男副社長(当時)の理論だ。
「ロールアイスクリームファクトリー」の場合、明らかに手の込んだ、非日常的な体験型アイスであり、この店に来るのを念願として第一の目的とする人が多い。顧客単価の970円は、アイスとしては高いが、シネコンで映画を鑑賞するよりもはるかに安く、多くの顧客にとって店に来る交通費のほうが高いだろう。サーティワンでも、ロードサイドのような郊外の店の顧客単価は1,000円を超えている。
つまり、顧客にとって行列に並んで店舗に入り、店員とコミュニケーションを取って注文をして、つくる過程を鑑賞しつつ撮影し、店内の立ち食いスペースで完成したアイスの写真を撮って食べ終え、SNSに投稿するまでが、一連のエンターテインメントとなっている。「俺のフレンチ」の最盛期も長蛇の行列に並び、注文、調理過程の鑑賞から、できた調理を五感で味わうまでが、一連のイベントとして認識されていた。SNSに投稿した人も多い。同店を目的に旅行・観光する価値のある店として成立しているのだ。
「ロールアイスクリームファクトリー」はわざわざ行く体験型観光にしては、1,000円を切る単価は激安とも言え、学生でも体験できるレジャーなのである。人件費、原材料費がかかり、つくるのに時間がかかっても、アイスクリームという商品の性質上、店内に長時間滞留する人もいない。その価値を認める人で営業時間中、顧客が絶えず、立ち食いやテイクアウトで常に回転していれば、ビジネスになるのだ。
同店では5台のマシン(冷たい鉄板)を使って、店員1人が1台のマシンを担当し、2交替制でロールアイスをつくっている。全員若い女性のアルバイトたちは、同店に入るまではロールアイスをつくったことがないはずだが、インスタ映えするアーティスティックなアイスを、顧客の目の前で器用に組み立てていく。
ちょっとした配置のズレで見た目の印象がかなり変わってしまうので、センスと手先の器用さが求められる難易度の高い仕事だと思うのだが、最初はうまくできなくても、研修期間を経てSNSに載せて喜ばれるレベルに達していく。顧客はインスタグラムに投稿された写真を見せて、このようにつくってほしいと注文する人が多い。
アイスをロール状に巻く時などに力も必要で、慣れないうちは腕が痛くなるケースもあるが、アルバイトたちはやがてコツを習得していく。デコレーションが好評な場合、「いいね!」がたくさん付いたり、Twitterで拡散されたりするので、それが励みになる。
最近はコラボの依頼が増えて、7月20日には、
勢いを増す「ロールアイスクリームファクトリー」だが、明らかに混同させて儲けてやろうという模倣業者が後を絶たない。紛らわしい店名を付け、メニューやアルバイトの募集広告も真似て、人を集めようとする店など、間違って電話が掛かって来るので実害があり、弁護士を入れて止めさせている。
商標登録は分野ごとになっているが、最近はコラボが増えてきたので、先回りして登録されてしまわないように、弁理士、弁護士に相談して様々な分野で登録を行っている。こういった法律関係に掛かる費用がかさむのが悩みの種となっている。
「ロールアイスクリームファクトリー」のフォロワーたち
現状、ロールアイスを原宿で販売している店は3店ある。「ロールアイスクリームファクトリー」と、竹下通りから少し路地に入った場所にある「マンハッタンロールアイスクリーム」及び竹下通りの「レインボー スイーツ ハラジュク」である。
「マンハッタンロールアイスクリーム」は昨年8月にオープン。現在は、名古屋の大須、福岡の大名、那覇の沖縄国際通り、広島の本通り、横浜の元町にも出店しており、6店体制になっている。9月1日には神戸の三宮にも出店する。
FC(フランチャイズ)システムを導入し、「低投資で効率の良い収益モデルなので飲食業が初めての企業でも安心」で、短期間に全国展開したいとしている(18年5月31日付、PR TIMES)。
浅野氏が「ロールアイスクリームファクトリー」を始める時に、「このビジネスモデルでは1時間に幾つもつくれない。儲からない」と外食のプロたちに忠言されたことを思い起こしてほしい。ロールアイスが、低投資で効率の良い収益モデルであるはずがない。
加盟金だけ取って、あとは経営指導も行わず放ったらかしにするような、杜撰なビジネスにならないことを願いたい。
「レインボー スイーツ ハラジュク」は商品も店舗もレインボーカラーにした、「レインボー」をコンセプトとしたインスタ映えを狙ったスイーツ店で、今年5月23日にオープン。
レインボーロールアイス(950円)は看板メニューだがその他、レインボーソフトクリーム、レインボーわたあめなどを販売し、ロールアイスの技術を習得している人があまりいなくても店が回せるようになっている。