東京五輪のボランティアが「ブラック」という説は大きな勘違いだ

 

今週のざっくばらん2:AIエンジニアの雇い方

先日、医療ベンチャーのCEOをしている知り合いから連絡があり、「網膜画像の病理判定のために、AIが出来る人を雇いたいんだけど良い人を紹介してくれない?」というリクエストを受けました。「AIが出来る人」と言っても色んな人がいるし、本当に優秀な人は私が雇いたいので、こんなリクエストをもらって結構困ってしまいます。

「AIが出来る人」の中でも、もっとも貴重な人は、数学にやたらと強い人で(必ずと言って良いほど博士号を持っています)、関わっている分野の最新の論文に目を通し、自らニューラルネットワークの設計もするし、自分で論文を書く、エンジニアというよりも研究者です。この分野で実績をあげるには、設計したニューラル・ネットワークを微妙に調整しながら、1回数時間から数日間かかるトレーニング(機械学習)を繰り返して最適なハイパーパラメターを見つけ出すなど、研究者特有の忍耐力を持った人です(私には到底無理です)。

こんな人たちは、とても貴重なため、GoogleやFacebookが高給で雇おうと必死で、今や年収$1 million (1億円強)超のオファーがされることもあるそうです(参照:A.I. Researchers Are Making More Than $1 Million, Even at a Nonprofit)。

たとえ運よくこんな研究者が雇えたとしても、彼らはあくまでも研究者なので、研究のためのお金はふんだんに使う上に、締め切りとか人事評価のようなコンセプトは拒否するし、研究の成果は論文にして発表したがるので、よほど余裕のあって長期投資が出来る会社ではないと抱えることが難しいのです。

MicrosoftやGoogleはもともとそんなカルチャーの研究部門がある会社なので問題ありませんが、秘密主義のAppleのカルチャーとは長いこと馴染まず、ようやく2016年になって、AppleのAI研究者も論文を書いても良いことになったことが大きな話題になったぐらいです(参照:Apple Has Finally Published Its First AI Research Paper)。

そんな状況なので、日本の医療ベンチャーがその手のトップAI研究者を雇うことがそもそも無理だし、短期間で成果を出さなければならないベンチャー企業には全く馴染まないのです。

AI研究者の下に、彼らの成果をビジネスに活用する仕事に携わるAIエンジニアたちがいます。

AIエンジニアもピンからキリで、AI研究者たちの最新の研究を追いかけて、プロジェクトごとにその時点で最適なニューラル・ネットワーク・アーキテクチャを選び出したり、そのハイパーパラメターを持っているデータに合わせて最適化する、などの仕事が出来るスーパー・AIエンジニアから、理論的なことがちゃんと出来ていないものの、オープンソース化されているAIのライブラリを使いこなせることだけが自慢の、なんちゃってAIエンジニアまで、様々です。

医療ベンチャーがAIエンジニアを雇おうとすると、応募してくるエンジニアの大半がなんちゃってAIエンジニアで、にも関わらず10万ドル以上の給料を要求してくる彼らに悩まされることになることは目に見えています。本来ならば、まず最初に実績のあるスーパー・AIエンジニアを、GoogleやMicrosoftから引き抜く形で雇い、その人にチームを作らせれば良いのですが、Googleでボーナスも合わせると毎年50万ドルを稼いでいる連中を、引き抜くのは簡単ではありません

そうなるとITコンサルティング会社にAIシステムを作ってもらうぐらいしか選択肢がありませんが、これはこれで大きな罠があります。彼らは、とにかく人月工数で稼ごうとするため、黒魔法のようなAI案件の受注コストはとんでもないものになる(少なくとも数億円)と覚悟した方が良いと思います。

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