タイ政府が関与か?周辺国も目を背ける「ポンドック迫害問題」

 

そして、もう一つのイシューが、タイ、マレーシア、インドネシアも絡む「タイ深南部」における“ポンドック”(注:マレー文化を代表するイスラム系の住民グループ)に対する迫害疑惑です。

もちろん、タイ政府は一方的な迫害については全面否定しますし、「あくまでも内政問題」との立場をずっと崩していませんが、事態は年々深刻化し、マレーシアやインドネシアも“当事者”としての参画を求めています。

加えて、アフガニスタンで戦ったムジャヒディンやISのアジア分派がポンドックに紛れ込み、当該地域における問題を一層複雑化しています。

2016年以降は、爆破テロなども多発し、タイ政府による“ポンドック・スクール”の強制的な閉鎖などを受けて対立は激化しています。

国内外のイスラム教徒からは「タイ政府による一方的なマレー文化への弾圧」というようにイメージ付けされ、これまで解決の糸口はつかめていません。

ここで注意しておきたいのは、すべての“ポンドックがイスラム過激派ではない、という点です。

あくまでも元々は、マレーシアと国境を接する深南部におけるマレー民族のグループの集まり”で、その後、イスラム過激派が紛れ込んで、タイ政府へ対立的な感情を煽って、事態が深刻化してきたようです。

本件については、2015年3月以降は、6つの組織が緩やかな大連合を築き、マラ・パタニという名で協働・共闘しており、タイ政府との交渉を行っていますが、タイ政府と交渉を行うことを嫌うBRN(もっとも過激なポンドック)の存在やポンドック・ムジャヒディンなど軍事部隊は、マラ・パタニの交渉スタンスを全く支持しておらず、マラ・パタニが実際にどこまでポンドックグループの意見を代表しているのかも怪しい状況だと認識しています。

実際に、水曜に開催した第1回の関係者非公式会合でもOne voiceとして立場を表明することが出来ず、加えてマレーシア・インドネシアも参加こそしましたが、「我が国には過激な行動を行うポンドックは存在せず、ポンドックはそもそも、あくまでも平和を愛し、マレー文化を愛するための教育を行っている機関で、タイで行われている一連の争いには、一切関与していない」と“当事者としての関与を拒んでいます

ただ、もしそうだとしたら、やはりこれは“タイの国内マター”になってしまい、これまでのように問題が明るみに出ることはなく、不条理に弱いものが傷つくという悪の連鎖が続くだけですので(実際にこれまでのテロ攻撃で命を落としているのは、タイのポンドックでの学校に通う子供たち)、いかに国際社会、特に周辺国を巻き込んでクリエイティブな解決を図るか、アイデアに苦慮しているところです。

そして、さらに困難なのが、マラ・パタニがポンドックを代表できていないという現実に直面し、タイ政府としても「誰を相手に交渉を本格的に進めるかが見えないことでしょう。

言い換えれば、事態は悪化する一方なのですが、意見を代表する強い交渉相手が、どうも存在していない、という事態です。

こればかりは、私が誰かを祭り上げることはできないので(するべきではないと考えますので)、この調整はちょっとまだまだ難航しそうです。

他には、お馴染み?!の北朝鮮をめぐる問題なのですが、こちらも“当事者”を主張する国が多いため、最初の“秘密会合”を行おうとした際も、準備された部屋に入り切れず、逆に目立ってしまい、結局、何も話し合いが出来ないまま散会となっています。

私がバンコクにいる間に、Next stepsへの足掛かりを付けたいところですがどうなるでしょうか。

一つ気になることは、この自称当事者の輪に日本がいないことです。

アメリカ政府から知らされていないのでしょうか?

会議の性格上、そして私の立場上、私からお知らせするわけにはいかないので、実際に会議が開かれることになった場合には、ぜひ参加してくれるといいなと願っています。

解説になっているかどうか分かりませんが、一応、かなりギリギリのお話内容をご紹介いたしました。

いかがだったでしょうか?少しは“最後の調停官”の仕事の様子が掴めましたでしょうか。

次回の号で、何かしらいいご報告ができることを祈って。

image by: shutterstock

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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