さて、前段のことを説明するに当たって興味深い研究結果がある。もともとはスポーツ心理学からスタートしたものだとは思うが、競技中の事故で大怪我を負った選手がどうやって恐怖心を克服し再び競技に戻って来るのか、ということをfMRIなどの動的画像解析を駆使して脳科学の分野からアプローチする試みがなされたのである。被験者はスキー・ダウンヒルの選手とカー・レーサーであった。眼前のモニターに自分が事故に遭ったコースの主観映像が流れ、被験者がその時を追体験できるようにしてあり、その間の脳の働きの動的変化を画像化するという仕組みである。
結果は実にドラマティックであった。映像が事故現場に近づくと扁桃体が激しく活動したのである。つまり恐怖に襲われたということである。すると次の瞬間、今度は前頭前野が激しく活動したのである。恐怖を理性でコントロールしようとしているのである。猛スピードという極限状態でも、脳は過去の恐怖を克服すべく必死に理性を働かせているということである。
これはトップアスリートだけに言えることではない。恐怖の克服とはそれに馴れて鈍感になることではなく、寧ろ恐怖を敏感に察知し、それを意志の力でコントロールすることなのである。
こういうふうに考える時、我々人間が今日ここまで繁栄できた理由も分かるような気がするのである。
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