なぜ、まい泉の「ヒレかつサンド」は1日3万食以上も売れるのか?

 

家業から120億円企業への大改革

大企業、サントリーの看板を引っ提げてまい泉に乗り込んだ岡本。しかし、迎える社員はビクビクしていたという。「私たちは企業の組織に慣れていないので、ついていけるのか、どういう考えで経営されるのか、不安はありました」(前出・伊牟田)

岡本は3ヵ月かけて全社員と面談し、リストラはしないことを約束する。しかしこのとき、社員の訴えで社内の驚くべき実態が明らかになった。食品事業本部の益江篤志は、岡本が来る前、デパ地下の店長を務めていた。しかし働き甲斐は感じられなかった。「現場で頑張って売り上げをとっても、それが給与に反映されるわけではなかった。頑張る意味がよく分からなかった」と言う。

例えば、店長になっても昇給するのかどうか分からない。給与体系がなく、上層部の裁量で決まっていたのだ。また、社員は原価や人件費について何も知らなかった。「なんで人事制度がないんだ、なんで自分の店舗のPLが見れないんだということなのですが、前のオーナーが『全部私が責任持ってやります。私が指示を出します』と」(岡本)

そこで岡本は人事制度を導入する。社員は全員、1年間の目標を作って提出。その達成度を上司が評価し、給与や昇進に反映させることにした。働き甲斐が感じられなかったと言っていた益江は、早速自分の目標を掲げ、岡本に提案した。

「当時、店の売場のかなりの面積を揚げ物が占めて、お弁当が小さかった。お弁当のスペースを広げさせてもらえれば、売り上げを120%まで上げますと社長に直訴しました。そうしたら社長が『じゃあやってみろ』とおっしゃった。それで私も『やるぞ』と思い、実際に弁当のところを拡大して、目標を達成しました」

目標を達成した益江は、順調に出世。今や東日本のデパ地下、43店舗を統括する課長だ。給与体系ができたことで将来の生活設計も可能に。念願のマイホームを手に入れた。「家を建てた時はうれしかったです。仕事をしっかりやって早く家に帰ろうという気持ちになりましたし、制度が変わったことで、やりがいと働きがいは各段にアップしています」

さらに岡本は職人のやりかたも変えた。見えにくい職人技を数値化して、若手に伝えられるようにしたのだ。トンカツづくりで難しいのは、パン粉を付ける力加減。その基準としたのが、トンカツづくりのレジェンド、生産本部長・松岡吉隆の技だった。職人の世界では、技は盗んで身につけるのが基本。しかし、それでは若手は育たない。そこで岡本は松岡の押す力を数値化するため、それを体重計で測ったのだ。

数値化で若い職人が育つようになり、職人による味のばらつきもなくなる。まい泉全体の品質アップにもつながった。さらに職人に資格制度を導入。技術を会得するごとに「マイスター」や「グランドマイスター」に昇進。それに応じて給与も上がる体制を作った。こうしてまい泉は、家業から企業へと変貌していった。

04のコピー

print
いま読まれてます

  • なぜ、まい泉の「ヒレかつサンド」は1日3万食以上も売れるのか?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け