なぜ、まい泉の「ヒレかつサンド」は1日3万食以上も売れるのか?

 

とんかつ「まい泉」攻めの営業&感動接客術

9月、秋祭りで盛り上がる東京・渋谷。昼どきにみこしの担ぎ手らに配られたのが「カツサンド」。まい泉のケータリング部門に所属している石戸谷祥子は、町内会から注文をゲットし、カツサンドやバーガー、100人分を持ってきた。

石戸谷がこの町内会にアプローチしたのは2年前。1年目は神輿を担いだだけだった。「1年目は一生懸命担いでいただいたんですが、2年目くらいに彼女の方から、『お弁当どうですか?』と言ってくれた。奥ゆかしいよね、1年目に来ないところが」(主催者)。まず祭り仲間として認めてもらう。2年がかりの営業が花開いたのだ。

岡本が来てから、社員は自ら考えて行動するようになった。ケータリング部門も、かつては客からの注文待ちだったが、いまは社員が考えて新たな客の開拓も狙っている。顧客リストにあるのは自動車教習所から劇団まで。石戸谷は「目に見えない市場がいくらでもある。(配達は)宝の山が埋まっていると思います」と言う。

店舗スタッフも自ら考えて行動するようになった。ランチタイムは大混雑する東京駅そばの大丸東京店。しかし、なぜか客の回転が速く、席に着くとすぐ揚げたてが出てくる。普通は注文を通してからとんかつが揚がるまで、10分から15分かかるが、わずか5分で、料理が到着した。

その秘密は、店長・鎌田美和の考える接客にあった。客が並んでいるうちから注文を聞くが、注文を取ったあとに店内をチェック。どのテーブルが空きそうで、どのテーブルがまだ空かないかを見極める。そしてタイミングを見計らって厨房にオーダーするのだ。

「ビジネスマンの方は、限られた時間の中で食事をするので、食べたら、さっと帰る。ご家族連れで小さなお子様がいらっしゃると、少し時間をかけてお食事されるだろう。そういったところで見分けています」(鎌田)

鎌田の工夫は、ほかのスタッフにも広がり、ランチタイムの客数が月に400人近くも増えたという。鎌田の接客には、お客からこんなメールも届いている。

『私は下の子にミルクを飲ましていたのですが、「温かいご飯とお味噌汁に変えますね。お子さんいると大変ですよね」と、ご飯とお味噌汁を温かいものに笑顔で変えてくださいました』『鎌田さんと名札に書いてあったと思います。ありがとうございました』

~村上龍の編集後記~

創業者・小出千代子さんは、考えられる限りの、工夫と努力を重ねた。人として、女性としての、自立の基盤とするためだった。買収では、双方にリスペクトがあり、岡本さんの、緻密かつ大胆な改革によって、幸福なM&Aとなった。停滞も指摘される日本経済だが、優れた個別企業は、新生「まい泉」のように、知恵を絞り、社内外のコミュニケーションの困難さを自覚し、乗り越えて、サバイバルのさらに先を目指す。

収録後の夜、お土産にいただいたカツサンドが、夕食になった。何箱食べたかわからない。まったく、飽きなかった。

<出演者略歴>

岡本猛(おかもと・たけし)1957年、大阪府生まれ。1980年、慶應大学卒業後、サントリー入社。「ジガーバー」「プロント」など、新たな業態を開発。2002年、外食事業部に配属。2008年、井筒まい泉の社長に就任。

(2018年11月8日にテレビ東京系列で放送した「カンブリア宮殿」を基に構成)

テレビ東京「カンブリア宮殿」

テレビ東京「カンブリア宮殿」

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テレビ東京系列で毎週木曜 夜10時から放送。ニュースが伝えない日本経済を、村上龍・小池栄子が“平成カンブリア紀の経済人”を迎えてお伝えする、大人のためのトーク・ライブ・ショーです。まぐまぐの新サービス「mine」では、毎週の放送内容をコラム化した「読んで分かる『カンブリア宮殿』~ビジネスのヒントがここにある~」をお届けします。

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