なぜ、まい泉の「ヒレかつサンド」は1日3万食以上も売れるのか?

 

「幻の豚」から「究極のとんかつ」を

岡本は、家業だったまい泉を企業へと変貌させた人物だ。まい泉は1965年、わずか10坪の店からスタートした。創業者は普通の主婦だった小出千代子。それを2008年、サントリーにいた岡本が引き継いだ。岡本の社長就任後、まい泉の売り上げは75億円から121億円へと拡大した。

「今までのやり方を守っていくとなりがちですが、そうではなくて、もっと良くするためにはどうしたらいいか、もっとおいしくするためにはどうしたらいいか、ずっと考え続けることが大事じゃないかと思います」(岡本)

岡本改革の象徴ともいえるのが「究極のとんかつ」作り。その命を受けたのが、営業開発本部の坂口茂人だ。坂口が訪ねたのは千葉県にある「堀江ファーム」。堀江光洋さんは養豚業60年のベテランだ。「堀江さんの豚肉に出会って、他の豚が食べられないというぐらい感動した」と言う。

坂口は全国100以上の養豚業者を訪ねた末にここを選んだ。坂口を感動させたのは、人呼んで「幻の豚」。イギリスから直輸入された「中ヨークシャー種」だ。きめ細やかでやわらかい肉質と甘い脂が特徴。トレードマークはひしゃげた鼻だ。

中ヨークシャー種はかつて日本でも広く飼育されていた。しかし、体が小さく成長も遅いため次第に飼育数が減り、一時は全国でわずか7頭にまで激減。「幻の豚」と、呼ばれるようになる。だが、堀江さんは自分たちで食べる分だけ、細々と飼育し続けていた。「一番の欠点は産出量が少ないこと。あと、豚はどうしても呼吸器病が多いのですが、鼻の距離が短いですから」(堀江さん)

この豚こそ究極のトンカツにふさわしい。坂口はすぐさま、全頭購入する契約を結んだ。ただし、週に5頭しか出荷できず、市場価格は通常の豚の3倍にもなる。「幻の豚」専用の餌には、まい泉のヒレかつサンドで切り落したパンの耳を混ぜてある。「小麦粉が発酵しているので、肉がおいしくなる」(堀江さん)という。まい泉と堀江ファームで作り上げた特別な餌で、肉質はさらに向上。幻の豚が究極の豚となったのだ。

これが食べられるのは青山の本店だけ。店では究極の豚肉を低温で4週間熟成。するとうまみ成分のアミノ酸が増え、さらにおいしくなるという。究極のとんかつはその名も「甘い誘惑 熟成豚ロースかつ膳」(5000円)。出荷数が少ないため、販売は土日のみ。しかも1日に10人しか食べられない、まさに「幻」だ。

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