盟友マティスが去ってもトランプが譲らぬ「敵は中国のみ」の正答

 

マティスとトランプ、戦略観の違い

マティスさんの辞表の内容について、BBCは報じています。曰く、

「この国の力は、独特で包括的な同盟関係や協力関係と、不可分に結びついていると、その核心的信条を私は常に抱えてきました。自由世界において米国は不可欠な国ですが、それと同時に、強力な同盟関係を維持し、その同盟国を尊重しないことには、自国利益を守れないし、自由世界における自分たちの役割を果たせません」
(同上)

マティスさんは、「同盟国を尊重し大事にせよ!」といっている。これ、まったくそのとおりですね。トランプさんは、同盟国に対し、かなり横暴で高飛車な態度をとります。欧州にいき、真っ先にいうのは、「もっと金を払え!」。日本に来て、「もっとアメリカから物を買え!」。いってもいいのですが、目立つところで大声で、命令調でいう。そういう態度にあきれているのは、日本だけではないのです。

その点、マティスさんは、同盟国を尊重し礼儀正しく穏やかです。それで、日本で好かれている。私もマティスさんが好きですし、尊敬しています。それでも、「ここはトランプさんの方が正しい」と思うことがある。日本のメディアには見当たりませんでしたが、マティスさんは、こんなこともいっています。

私たちは、戦略的利益が私たち自身の利益と対立している国々に、決意と一貫性を示さなければならないと思います。たとえば、中国とロシアは、世界を彼らの権威主義的モデルに変えようとしているのは明らかです。

これ、「その通りじゃないか」と思うでしょう。そうなのですが、問題は「事実か事実でないか?」ではありません。「アメリカは中国ロシアを同時に敵にまわして勝てるのか?」ということです。

皆さんご存知のように、アメリカは、日本ナチスドイツに勝つために、ソ連と組みました。勝利した後は、今まで敵だった日本とドイツ(西ドイツ)と組み、ソ連を倒した。要するに、「順番に倒していった

マティスさんは、「中国とロシア両大国と戦え!」と主張している。しかし、リアリスト神ミアシャイマーさんや世界一の戦略家ルトワックさんは、「ロシアと組んで中国を封じ込めろ!」と主張しています。そして、ルトワックさんは、米ロが直でつながるのは難しいので、「日本がアメリカとロシアをつないでくれ」といっているのです。

そして、彼は日本がロシアに接近することを勧めています。ロシアとつながることが日本がサバイバルできるかどうかの分かれ目だと。

もちろん日本自身の決意とアメリカからの支持が最も重要な要素になるのだが、ロシアがそこに参加してくれるのかどうかという点も極めて重要であり、むしろそれが決定的なものになる可能性がある。
(『自滅する中国』)

そして、トランプさんも、最初から「ロシアと組んで中国と叩く」という「戦略観」を共有しているのです(ロシアゲートで、なかなか実現できないが…)。

で、シリア撤退はどうなのか?前号でも書きましたが、現在のアメリカは、あちこちで戦いすぎです。シリア、ウクライナでロシアと戦い、イランと戦い。中国と戦い。アメリカはシリアを捨てウクライナを捨て、ロシアと和解する。そして残るのは、「中国との戦いだけ」です。どう考えても「戦略的に正しいよな」と思うのは、私だけではないでしょう。

image by: shutterstock

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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