また騙すのか。小型原発で延命をはかる原子力ムラの悪あがき

 

福島原発事故は想定外の津波による特殊ケースだといったバイアスも、原子力の将来への奇妙な楽観を生んでいる。経産省の役人たちにしても原発関連の数多くの天下りポストを捨てたくはないだろう。

東京新聞の記事によると、資源エネルギー庁の武田室長は小型原発計画について、地球温暖化防止の「パリ協定実現のため、と述べたという。

地球温暖化防止のために、CO2を出さない原発が必要という論法は、再生可能エネルギーが普及期に入った今では通用しなくなっている。今後、蓄電技術の発達や、AIの活用などが進むことにより、再エネの不安定要素を十分カバーできるだろう。

世耕弘成経産相は国会で「原発の新設建て替えは全く考えていない」と答弁している。それでも、2030年に原発の割合を20~22%にする目標は変えていない

ならば小型原発を例外として多数建設し、20~22%の数字目標を達成するつもりなのかと思ったら、東京新聞によると、「小型原発は出力が不安定な再生エネをサポート(補完)するのに必要」と、あくまでサブ的な役割を強調しているようなのだ。

そもそも小型原子炉は出力が30万キロワット程度しかなく、まだどこも事業化したことのない技術である。理論的には成り立っても、実際に建設し運転していない現段階で、経済合理性があるかどうかもきわめて怪しい

にもかかわらず、小型原発の開発計画を今になって経産省が引っ張り出してきた背後に、原子力ムラの巨大な力が働いていることは容易に想像できる。

原発建設にかかわる電力会社、原子炉メーカー、ゼネコン、それらをめぐるあまたの取引企業。その利益共同体は、国民からの電気料金を源泉とする豊富な資金でマスコミに広告料を提供、学者に研究開発費を拠出し、官僚には「天下りポスト」、政治家には「政治資金」を提供して、“わが世の春”を謳歌してきた。

しかし、福島原発事故は状況を一変させた。国内で原発の新増設が難しくなったため、政府と原子力ムラは、原発を国外に輸出することで夢の継続をはかったが、東芝は子会社、米ウェスティングハウスの原発建設にかかわる巨額損失で経営の屋台骨が揺らぐ事態となった。日立製作所もまた、英国での原発新設がうまくいかず、計画を凍結する方向だ。

いずれも福島原発事故後に厳しく求められた安全対策による建設コストの急騰が主な原因だ。

ほかにも、ベトナムへの原発輸出が白紙となり、トルコやリトアニアで日本が受注した原発も、住民の反対で行き詰っている。

もはや、実績ゼロゆえに新たな幻想をつくりやすい小型原発しか打つ手がなくなったということだろう。

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