ゴーン長期勾留に海外から批判殺到。日本の「人質型司法」の異常さ

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海外のメディアのニュースを、日本のマスコミではあまり報じられない切り口で本当はどういう意味で報じられているのか解説する、無料メルマガ『山久瀬洋二 えいごism』。今回は、カルロス・ゴーン氏の長期勾留で海外から厳しい目を向けられている日本の司法制度の課題について解説しています。

ゴーン氏事件によってあらわになった、日本の司法制度の課題

The Carlos Ghosn case is putting Japan’s system of ‘hostage justice‘ under scrutiny

訳:カルロス・ゴーンのケースは日本の「人質型司法」の是非を問いかけている(CNNより)

【ニュース解説】

 

日本の司法制度に今海外の厳しい目が向けられています。例のカルロス・ゴーン氏のケースで、彼の勾留が次々と延長されている状況が世界で報道され、注目されているのです。

実は、日本の司法制度は戦前からの規定がそのまま生きているものも多く、硬直し変化することができない日本の制度の代表といっても差し支えありません。

英語でDeath and taxesという言葉があります。これは、死と納税は人間である以上逃れられない2つの宿命であるとして、税金を納める義務の厳しさを表したイディオムです。ですから、所得を過少報告し、さらに背任容疑にも問われているゴーン氏の置かれている立場が厳しいものであることは、日本のみならず海外においても異論はありません。

しかし、日本の場合、検察や税務署の旧態依然とした一方的な取り調べかたがあまりにも異常であると指摘されているのです。

日本では、弁護士であっても、税務署と争うことを嫌います。また、検察の取り調べに対して弁護士が被告を代理し立ち会ったりすることは許されません。その結果、被告は一方的に独房に閉じ込められ、長期間の厳しい取り調べに耐えなければならないのです。

ここで、冷静に考えてみたいことがあります。

憲法でも保障されているように、民主主義国家では人を非公開な環境で裁くことは禁止されています。同様に、被告人には黙秘権もあれば弁護士を立てて争う権利も与えられているのです。当然被告人は裁判で有罪とされるまでは罪人ではありません。被告人はあくまでも被疑者であって、罪をおかした疑いをかけられているに過ぎないのです。従って、裁判に至る過程を含め、裁判所での判決が降りるまで、被告人は自らの罪が冤罪であること、あるいは軽微なものであることを証明する権利があるわけです。

アムネスティを含む海外の専門家、ジャーナリストが指摘したいのは、日本で被疑者を一方的に長期間拘束する制度がまかり通っていることが、この民主主義国家の原則に大きく逸脱しているのではということなのです。その結果、日本では検察が起訴したケースの99.9パーセント有罪判決がおりているという驚異的な統計が指摘されるのです。これは基本的人権が保障され、報道や言論の自由が認められている他の主要先進国と比べると5%から15%も高い数字です。

それだけ警察や検察官が緻密に捜査をしているからだという主張はあるかもしれません。しかし。逆にいえば、その緻密さと同様の時間と労力をかけて被告が自らにかけられている疑いに対して潔白を示す機会が与えられているのだろうかという疑問が投げかけられるのです。そして、被疑者が証拠を隠滅しないために留置するのであれば、被疑者が自由を奪われている間に検察官や税務官が自らに有利な証拠を捏造しない保障はどこに与えられているのでしょうか。

このことから、CNNは日本の検察の取り調べをhostage justice、つまり人質として取り調べる司法制度と皮肉っているのです。

今回、ゴーン氏は何度も保釈を請求したものの、最終的には彼がいまだに影響力があり、証拠を隠滅する可能性があることを理由に裁判所は保釈請求を却下しています。彼の息子によれば、ゴーン氏は勾留によって10キロ近く体重が減っていると指摘しています。

CNNはこのケースを取り上げるにあたって、2014年にビットコインのスキャンダルで、会社の資金を不正に流用した疑いで11ヶ月半勾留されたマルク・カルプレス氏にインタビューしています。彼によれば、日本での勾留は、単なる留置ではなく、すでに刑罰を受けているに等しい環境であると述懐し、その過酷さについて厳しく指摘しています。

彼は、拘置所の中の狭く劣悪な環境で、毎日長時間取り調べを受け、協力するよう迫られた模様を証言しているのです。カルプレス氏は拘留中に34.9キロも体重が減り、窓のない小さな畳の部屋に勾留され、規則を守るよう看守より厳しい指導や強制を受け、違反すると両手を後ろ側に拘束され、椅子のないフロアの上に数時間放置されたこともあったと証言します。カルプレス氏は最終的に保釈されますが、彼の裁判はまだ継続中で、今年の3月に陪審員による評決が予定されています。その手続きの長さと、その間実質上仕事も移動もできない状況におかれることも問題だと彼は訴えます。

ここでポイントを整理します。

拘置所は、刑が確定するまで被疑者を留置する場所です。基本的には殺人事件のような重大な犯罪などを除けば、刑が確定するまでは、被疑者は保釈されることも多く、保釈にあたっては、保釈金を預けると共に、逃亡や証拠隠滅を図らないように様々な条件が設定されます。さらに大切なことは、拘置所は犯人を処罰するところではないのです。拘置所は刑務所ではありません。従って、看守による過度の拘束や侮辱、処罰などを受ける場所ではないわけです。

もちろん、金銭上のモラルの問題において、ゴーン氏やカルプレス氏に対して様々な指摘があることは当然でしょう。ただ、そのことと、司法や刑罰の制度とを混同してはまずいことを我々は冷静に考えるべきです。

それよりもなによりも、多くの海外メディアは、同じ制度に固執し、変化を嫌う日本の権力の構造を象徴したものとして、今回のケースを注視しているのです。 日本が本当に自由で民主的な国家なのか。今回の事件は皮肉にもゴーン氏が有罪かどうかということ以上に、こうした原点的なテーマを問いかけるケースとなってしまったのです。

image by:Frederic Legrand – COMEO, on shutterstock.com

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【著者】 山久瀬洋二 【発行周期】 ほぼ週刊

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