外国人社長は失敗しても高額報酬
ゴーン氏の経営改革で日産は救われたものの、その後のゴーン氏の専横を許し会社を私物化させたままに放置していたのは、日産幹部がだらしなかったためであることは間違いない。日本企業は思い切った改革ができず経営破綻に突き進むことが少なくない。そうした時に、外国人経営者をトップに呼び込んで経営改革を肩代わりしてもらう例が多いのだ。
まさにゴーン改革はその典型例だが、過去にもお雇い外国人経営者に高額の報酬を払い失敗した例も少なくない。例えば、ソフトバンクグループは最重要後継者社長候補としてインド出身のN・アローら氏を何と64億円で招聘したが、1年で退任している。またセブン&アイHDが呼んだJ.M.デピント氏には24億300万円。
あの名門ソニーも業績低迷の責任をとって辞めた出井伸之社長の後任にアメリカで映画・映像事業を担当していたハワード・ストリンガー氏を2005年に後継に引っ張った。しかしソニーの成長の基礎にあったモノづくりを軽視し、映像事業のソフト開発に資金を投入したため2009年3月に赤字決算となり、ストリンガー氏が退任(2012年)するまでに赤字が4期続きその累計額は9,200億円に上って、株価も4,000円台から1,000円台にまで落ち込んだ。ストリンガー氏の報酬は8億円を超えていた。
果断なコスト削減、経営が出来ない日本人社長
不振の日本企業が外国人社長を登用するのは、ゴーン氏のように思い切ったリストラを行なうと考えるケースが多いようだ。日本人経営者は果断なリストラができずグズグズしているうちに累積赤字を増やしてしまうが、狩猟民族的な外国人社長だとスパッと果断に改革を実施し、結果を早く出そうとするし、結果を出さないと自らの存在も問われてしまうからだ。その点。農耕民族的な日本人はゆっくり改革をやっても、そのうちに果実があがればヨシとする傾向が強いといえるのではなかろうか。
また外国人社長だと、国際化時代になって海外市場を開拓することに適しているし海外事情に精通していると考えたり、日本人とは違った独創的なやり方で企業運営を行なってくれそうだ──などと考えるケースが多いようだ。
優柔不断で大胆改革できない日本人社長
日本ではいきなり外国人経営者がやってきてリストラを断行されてもなかなかついていけない。かといって日本的経営だけで過ごしているとギリギリまで大幅な改革を断行できず手遅れになってしまうことも多いのだ。本当は日本の労働習慣や文化、経営手法を理解しながら外国流のナタが振るえる外国人経営者が求められているが、両方を兼ね備えた人物が見当たらないのが実情だ。
ただ例外もある。300年以上の歴史を持つ老舗で国宝や重要文化財の修復を7~8割手掛けている小西美術工藝社の社長は英国人のアトキンソン氏だ。同氏はコンサルタント会社、証券会社を経た後G・サックス社の共同経営者になった人物だ。一方で1999年から茶道の裏千家に入門し日本の伝統文化に親しみ、その後京都に町屋を購入し、G・サックス社を退社し茶道に没頭していたという。
そのアトキンソン氏が偶然、小西美術工藝社の社長と親しくなり社長就任を要請された。社長に就任してみると経理も在庫管理も丼勘定だし、職人の4割が非正規雇用で経営も安定していなかった。このため改革を進め非正規社員を全員正社員とし、技術継承のため若い職人を増加させたり設備投資も実施した。こうして職人の仕事の質と生産性が上がり、5年間の利益平均がその前の5年間より80%以上も伸びたという。
国際化、多様化を求められている時代の中、日本文化、日本的経営も理解した果断な経営のできる外国人経営者がますます求められるようになってきたとはいえるが、どういう人物を選ぶか──問われる時代でもある。
ちなみに「役員四季報2019年版」によると上場3,708社、約4万1,000人の企業役員のうち年1億円以上の役員報酬を受けている人物は約500人いるが、10億円を超える役員は10人おり、うち7人が外国人である。一般サラリーマンの生涯給与は約2億円といわれる。(TSR情報 2019年1月24日)
参考情報
ルノーは1月24日、会長兼最高経営責任者(CEO)を務めるカルロス・ゴーン被告が退任し、後任会長に仏タイヤ大手ミシュランのジャンドミニク・スナールCEOが就く新体制を発表しました。また、26日の日経新聞は、仏ルノーと日産自動車、三菱自動車の3社連合は今月末に定例のトップ会談を開く見通し。ルノーからは24日付で就任したジャンドミニク・スナール新会長が初めて出席する予定と報じています。
※ これまで嶌が記したゴーン被告の記事を参考までご紹介いたします。ご興味をお持ちの方は合わせて参照下さい。
image by: 株式会社小西美術工藝社Facebook