麻生氏のために、どんな手柄を立てたか。その証明にもってこいの話があった。福岡政財界が悲願とする「下関北九州道路」建設の件だ。昨年12月20日のこと。
「大家敏志さんがですね 私のもう一人逆らえない吉田博美さんという参議院の幹事長と一緒に 私の副大臣室にアポをとって来られました。『地元の要望がある』。これが下関北九州道路です」
大家議員は福岡選出の参院議員、吉田氏は自民党参院の幹事長をつとめる実力者だ。
「コンクリートから人っていうとんでもない内閣があったでしょ。民主党の悪政権ができて、こういう事業は全部フリーズしちゃったんです。下関と北九州ですよ、みなさんよく考えてください。下関は誰の地盤ですか。安倍晋三総理ですよ。麻生副総理の地元でもある北九州への道路の事業が止まっているわけですよ」
何でも民主党政権のせいにする安倍首相の脳回路をコピーしたかのようだが、「下関北九州道路」の凍結は、自民党福田政権が2008年に決めたものだ。
テンポの良い塚田節はクライマックスへ。
「吉田幹事長が私の顔を見て『塚田、わかってる?これは総理の地元と副総理の地元の事業なんだよ』と。『俺がなんで来たと思うか』と言うんですね。私すごく物わかりが良いんです。すぐ忖度します。『わかりました』と。そりゃ総理とか副総理がそんなこと言えません」
なるほどこうやって実力者のために気を利かせる者たちが出世するのか。逆らえない人物に頼まれたら、国民全体の奉仕者たる立場を捨て、個別の政治的利益に手を貸す。それを恥と思わないどころか、得意満面に披露する。
それにしても、なぜわざわざ「忖度」という、安倍・麻生両氏にとって忌まわしい言葉を二度も使ったのだろうか。一度目は「私すごく物わかりが良いんです。すぐ忖度します」。
二度目はこれだ。「森友とかいろいろ言われていますけど、でも私は忖度します」
単なるウケ狙いとも思えない。「私は忖度します」は、麻生氏に忖度しない誰かへのあてつけではないか。だとすれば、敵対する県知事候補、小川洋氏を意識しているに違いない。
麻生氏が前回知事選で支援した小川氏を毛嫌いし始めたきっかけは2016年の衆院福岡6区補欠選挙からだとされる。
鳩山邦夫元総務相の次男、鳩山二郎氏と、党県連会長の長男、蔵内謙氏の自民党系2人が立候補し、分裂選挙に突入した。鳩山氏は菅義偉官房長官らの派閥横断グループ「きさらぎ会」が支援、蔵内氏には麻生太郎氏がついた。副総理と官房長官が敵味方に分かれる“代理戦争”の様相を呈した。
この選挙で、小川知事が、蔵内氏への応援要請を断ったことから、蔵内陣営の選対本部長をつとめていた麻生氏の逆鱗に触れたという。
それだけではない。何かにつけ、麻生氏の言うことをやすやすと聞かないのが気に召さなかったらしい。要するに麻生氏は度を越したわがまま者なのだ。