「誰も働かない」AI時代にベーシックインカム制度が必要な理由

 

AI時代に好ましいベーシックインカム制度

私個人としては、すべての国民に一律に同額の現金を支給する、本当のベーシック・インカム(universal basic income)が最も好ましいと考えている(生活保護、雇用保険、強制加入の年金制度や健康保険制度などは廃止)。過渡期の問題や、抵抗勢力が沢山あって、現実的にはなかなか難しいと思われるだろうが、現状のシステムに適応している大半の抵抗勢力も、AI化が進めば失業を余儀なくされ、抵抗勢力も現状のシステムも共に崩壊するので、新しいシステムを構築するのはさほど困難なことではないと思う。例えば、年金制度にディペンドしている厚労省の一般官僚や、健康保険制度で食っている多くの医者は、AI化が進めばともに失業する。 問題はベーシック・インカムの原資である。中には、社会保障給付費(年金、医療、福祉等)をベーシック・インカムにすべて回すとして、2018年度の給付費の総額は121兆3000億円で、これを日本の総人口1億2644万人(2018年10月1日現在)で割ると、年額約96万円(月額約8万円)となるので、増税しなくとも、月額8万円程度のベーシック・インカムが可能だと主張する人がいないわけではないけれども、これはもちろん前提が間違っている。20年後に大半の国民が失業するという状態では、この数値自体が意味をなさなくなってくるので、他に原資を考える必要がある。 AI化が進めば、人件費はごく安くなるので、製品を以前と同じ値段で売れば、企業の儲けは膨大になる。企業の黒字の例えば8割とかをベーシック・インカムの原資として徴収すれば、企業も、国民も共に生き延びることができる。問題は企業間で自由競争をすると製品の価格がどんどん下がり、その結果ベーシック・インカムの原資が減って、国民の購買力も落ちることだ。国際競争力をどう担保するかというややこしい問題を、とりあえず措くとすれば、負のスパイラルに陥らないためには、ベーシック・インカム時代においては、経済に関する常識をひっくり返す必要が出てくるだろう。 例えば、製品の最低価格を設定して、それ以上安く売ってはいけないことにする。企業の黒字を担保するため、役員や従業員の報酬の上限を決める。経済を回すためにベーシック・インカムの半分以上(例えば7割以上)は必ず消費することを義務づける、等々。現状では、馬鹿げた考えに思われるだろうが、少し前まではベーシック・インカムはもちろんのこと、民主主義も男女平等も机上の空論だと思われていたわけで、現在は馬鹿げていると思われる制度でも、将来は当たり前になることはあり得るのだ。

image by: shutterstock.com

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