そんな服部長七が、「これは参った!」と降参したのが、岡山港だった。
岡山港は、既に江戸時代から堤が築かれていた。改修を命ぜられた服部長七は、くまなく古い堤をみて歩いた。しきりに首をひねった。同行していた役人が、「何をそんなに感心しているのだ?」ときくと、「この古い堤は、理論的にも技術的にも、現在の技術をはるかに超えている。一体、誰が造ったのですか?」ときいた。役人は即答ができなかった。
役所に戻って調べてみると、熊沢蕃山が造ったものだと分かった。そこで服部長七に、「あの堤は熊沢蕃山という人が造ったのだ」と告げた。長七は感動して、「ぜひ、その熊沢さんに会わせてくれ。もっと話をききたい」といった。
役人は弱った。何百年も前に死んでいると告げると、長七はさらに目をみはった。
「そんな昔の人が、よくあんな堤を造った。これは驚いた」
自信家だったかれが、初めて先人の知恵と技術に降参したという話が残っている。熊沢蕃山は、そういうように学問を後輩に教えるだけでなく、実際に工事面でも優れた知識と技術を持っていた。
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