侮るな。なぜ「吉本興業」問題は人ごとでは済まされないのか?

reizei20190723
 

連日、ワイドショーのみにとどまらず、ニュース番組でも大きく報じられている「吉本興業問題」。華やかな世界で起きた一連の出来事は一見、私たちの生活とは無縁のようにも感じられますが、米国在住の作家・冷泉彰彦さんは「人ごとではない」とします。その理由とは?冷泉さんが自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で明らかにしています。

人ごとではない芸能プロ問題

有名な芸能人が、曖昧な理由でその地位を追われたり、金銭的に不利な扱いを受けるというのは、見ていて楽しいものではありません。そうしたニュースが続くことで、回り回って社会を暗くするということもあります。問題は、実はこうした「芸能プロ問題というのは人ごとではないということです。

1番目は、「闇営業」の問題です。今回の吉本興業の問題では、犯罪集団との癒着という問題と、事務所を通さない「闇営業=直取引=バイトの問題がゴチャゴチャに議論されています。まず犯罪集団との癒着については、とにかく厳格な制度と取り締まりが必要ですが、問題は闇営業」です。

この「闇営業」がどうして問題になるのかというと、これは、個々人の芸能人からすると、所属団体が「契約者に対して厳しい独占契約を課す」という状態ですから、強い拘束感があるわけです。勿論、独占契約にした分だけ、ウィンウィンの関係でお互いがハッピーならばいいわけですが、そこに不公平感や「搾取されている」という感覚があるのなら、やはり問題はいつまでも続くでしょう。

この問題は、いわゆる会社員や公務員の場合は「兼業禁止」と重なってきます。会社が兼業を禁止するのは、情報漏れの危険とか、疲労して本業に悪影響があるなどの理由ですが、実は他にもたくさん理由があります。例えば、年功序列で生計費から逆算して生涯の賃金を決めているのに副業収入があると給与の根拠が崩れるとか転勤や残業命令が出しにくい、などの問題です。

こうした問題がどうして不自然なのかというと、「たかが」仕事であるのに、事務所や会社が「全人格あるいは全人生を拘束していることに、非常に不自然な感じ、あるいは自分が自分で自由にならないという強い不快感を持つのが当然だからです。その意味で、犯罪集団との癒着については、厳しく考えるべきですが、「闇営業の問題は切り離して考える必要がありそうです。

2番目は「貸し借り」の問題です。例えば芸能人を育てる際に、事務所が演技、ダンスや歌のレッスンなどを負担するということがあります。そのような育成の直接の費用もそうですが、売れない間も給料や移動費などを負担してゆくわけですから、いわゆる「先行投資」の額は大きく積み上がります。また、最終的に「芽が出ない」で終わるタレントもいるわけです。

ここに「貸し借り」の関係が生まれます。

そうすると、芸能人が「売れた」後で、その売上から事務所が回収」を図るというのはある意味で必然性があります。たくさん「貸している」のだから「返せ」というわけですが、問題はその額が不透明だという点です。十分に事務所に「貢献した」タレントが、それでも契約に束縛されているというのは不自然です。そして独立の意志を明らかにすると、妨害を受けるばかりか独立後は仕事を干される」と一般に言われているわけです。

この「貸し借り」の問題も芸能界だけではありません。例えば、事務職の正規雇用の場合などでも、最初の数年間は研修が中心で、その間は「会社は未熟な新人に貸しを作っている」という状態になります。ですから、「一人前になるまで」は有休は取るなとか、辞めたら補償金を払えなどという横暴が出てくるわけです。

また、中堅社員になると今度はスキルを上に使われる」ということが起きます。どう考えても自分のアイディアなのに、管理職に手柄を奪われるとか、主任教授の功績になる、あるいはボスの発表なのに、パワポは実務クラスがヘトヘトになって作るとか、今度は実務の側が貸しを作っている」感じを持つことがあります。

これも問題です。多くの人は、ヘトヘトになるまで上司に功績を献上し、文書作成でフォローしたとして、自分が管理職になったら、あるいは自分が主任教授になったら同じこと、つまり虐待の連鎖のようなことをやるわけです。とにかく、キャリアにおける「貸し借りの関係」というのは、非人間的であり、明らかに個人の尊厳を壊しますし、ストレスで本当に一人一人の人間を破壊するものだと思います。

では、どうすれば「貸し借り」の関係から自由になれるのでしょうか?

それはスキルを個人につけるという方法です。シンガポールに行くと、日系財界の人から「優秀な現地社員は絶対に5時に帰るし、すぐ辞めるので要注意」という話をよく聞きます。

彼らはどうして5時に帰るのかというと、「ワーク・ライフ・バランス」を重視しているということもありますが、政府が国民に対して生涯学習を奨励しているということが大きいのです。生涯学習といっても、暇つぶしのカルチャーセンターではありません。そうではなくて、法律や会計の実務財務やコンピュータのスキルなどです。

つまり就職していても、「自分で夜学に通って、自分のスキルを身につける」それが政府の政策で、その結果として人材力が高まり国全体も発展してきたわけです。スキルのある人間は、国際労働市場で評価されて、結局は良い仕事へとステップアップして行けるのです。

この点に関しては、日本でも夜学のMBAなどが少しづつブームになっていますが、まだまだ決定的に遅れているわけです。

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