仕事をする上で、悩みのもととなりがちなのが人間関係ではないでしょうか。しかし脳の使い方次第では、例えば嫌いな上司も好きになれるのだそうです。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、オリンピック選手にも脳の使い方を指導されたという林成之さんが、どのように考えればそれが可能なのかを解説しています。
嫌いな上司を好きになる方法
2008年に開催された北京オリンピックでは日本競泳陣の活躍が目立ちましたが、その陰で選手たちに脳の使い方の指導に当たったのは、救急救命医療の第一人者でもある、林成之先生です。
勝負に勝つ脳の使い方は、そのまま私たちの日常での脳の使い方にも通じます。自分の能力を最大限発揮するための脳の使い方とは? そして、嫌いな上司を好きになる方法とは?
「嫌いな上司を好きになる方法」 林成之(日本大学大学院総合科学研究科教授)
多くの人は「命懸けで頑張ります」と口で言いますが、命懸けで脳が働くシステムを使っていないのです。
勝負の最中、前回のアテネオリンピックではこうだった、昨日コーチにこう注意されたなどと考えながら勝負をする。これは作戦を考えながら戦っているので命懸けの戦いにならないのです。
命懸けの戦いとは、過去の実績や栄光を排除し、いま、ここにいる自分の力がすべてと考え、あらゆる才能を駆使して勝負に集中する戦い方をいうのです。
これには「素直」でないとできません。素直でない人、理屈を言う人はあれこれ考え、その情報に引っ張り回されます。素直な人は、過去も未来もない、いまの自分でどう勝負するかに集中できるのです。
それと同時に、勝負を好きになること、コーチ・監督や仲間を好きになることです。だから選手の皆さんに言ったんです。「皆さんのコーチ・監督は、神様が皆さんに遣わした人たちですよ」と。
今回はスポーツという勝負の世界をクローズアップしてお話ししましたが、私たち一人ひとりの人生の勝負は自分の才能をいかに引き出すかだと思います。だから、家族も、会社の社長や上司、学校の先生など、みんな神様が遣わしてくれた人だと思って好きになればいいのです。会社がつまらない、上司が嫌いだと言っていたら、本当は能力があっても、自分で自分の才能を閉じてしまうことになる。
ただ、人間ですから、どうしても合わない人や環境もあります。希望じゃない部署に配属になることもある。日常レベルでも、トラブルが起きたり、クレームがあったり、いやなことを言われることもありますね。
その時は「競争相手は自分を高めるツールと思う」、あの考え方で、このひどい環境が、この経験が自分を磨くんだと思えばいいのです。
人間の脳は、海馬回だとか視床下部とか、それぞれが自分の機能を果たしながらも、連携をとりながら一つの脳として働いています。逆に一つだけが傑出していても、連携が取れていなければ脳としては働きが悪いわけです。
私たち人間もまた、自分の持ち場で精いっぱい役割を果たし、意見や立場の違いがあってもともに認め合って生きることが、結局は自己を生かす道だと思います。そのためにも、脳の仕組みを知らずに勝負に負けたり、自分はダメだと思ってしまったらもったいない。
人生の勝負に勝つために、自分自身の能力を最大限に発揮していただきたいと思っています。
※初出 『致知』2009年1月号
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