米中覇権戦争や、各国の領土問題などから見えてくるものといえば、「世界の国々は国益優先で動いている」という事実ですが、日本の行動原理は他国と異なるようです。今回の無料メルマガ『日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信』では、AJCN Inc.代表で公益財団法人モラロジー研究所研究員の山岡鉄秀さんが、「世界で好かれる漠然としたいい国」を日本が演じながらも袖にされている現実を解説するとともに、打開策を模索しています。
国益追求イコール悪と考える夢見る世代
全世界のアメ通読者の皆様、山岡鉄秀です。
最近、ちょっとショックを受けることがありました。私の「グローバル化が進む社会に対応し、国益を守れる人材の開発が急がれる」という論に異論を唱える方がいらっしゃったのです。
超有名グローバル企業の社長を務めた方です。立派な経歴と見識をお持ちです。しかも、日本の現状を憂いている愛国者です。
その方がおっしゃいました。「国益」という言葉に違和感があります、と。
その理由はよくわかりませんでしたが、どうやら、自分ファーストのように聞こえて嫌なようです。
私はこう述べていました。
「国益をしっかり守れる人間が、結果として国際的にも尊敬されるようになることが望ましい」
これにはこう意見されました。
「逆です。国際的に尊敬されるようになって、結果として国益を守れるのです」
そして、安倍首相への批判として、
「中国を敵視して、軍拡路線に走っている」
私としては、「国益という言葉に違和感がある」という反応に違和感と危機感を覚えます。世界を見渡せば、全ての国々が自国の利益を第一に考えてしのぎを削っているのが現実です。恐ろしく自己中心的な世界です。人類の進化はまだそんなものです。
そのことを私も残念に思います。どうして未だに覇権を求めて他国を圧迫する国が存在するのでしょうか?なぜ平和共存できないのでしょうか?
しかし、現実を直視することから始めなければなりません。世界は極めて自己中心的である。この事実をしっかり認識することから始めなくてはなりません。
もちろん、自国の利益だけを追求し、他国をないがしろにすれば、必ず軋轢を起こし、結果として自国の利益も失われてしまいます。ですから、常にWin-Winの関係を模索する必要があります。
私は自分のモットーを英語で聞かれたら、“ Win & Win or No deal”と答えています。お互いにとって有益な関係を築けないようなら、ディールしないでおきましょう、という意味です。国家間でも基本的には当てはまる考え方だと思います。
しかし、戦後の日本外交は、まさに、このベテラン経営者のセンチメントどおりに行われて来たのではないでしょうか?
自国のことは後回しにし、どの国とも仲良くし、好かれることが日本の国益になる!
100%間違っているとは言いませんが、あまりにナイーヴというものです。
延々と続けたODAで隣国は感謝することもなく軍備を増強し、真剣に日本の領土を侵略する意図を隠そうともしません。日本には尖閣はおろか、沖縄の領有権もないと宣言しています。
そのような野望を露わにしている相手に警戒心を抱くのは当然で、それを敵意と言われても困ります。
善意で尽くすことが国益になるなら、今頃東アジアはさぞかし平和な地域になっていることでしょう。現実には世界で最も危険な地域のひとつになっています。
そういえば、あの大前研一さんでさえ、最近メルマガにこう書いていました。
北方領土交渉で、安倍首相は順番を間違えた。中国との関係を改善し、尖閣の問題を解決してから北方領土問題に取組むべきだった。
尖閣を奪いたい相手とどうやって問題を解決するんでしょうか?攻めてきているのはどちらなのでしょうか?中国が世界中で行っている浸透工作の恐ろしさを大前さんはご存じないのでしょうか?簡単に関係を改善できる相手ではないのは自明の理です。その証拠に、いくら安倍首相や菅官房長官が「日中関係は完全に正常化した」「関係は改善している」と言っても、尖閣水域への侵入は全く減らないのです。
完全に舐められています。
やはり、「世代的要素」が存在するのでしょうか?
極めて優秀なビジネスマンでも、漠然とした善意で問題が解決すると無意識に信じている。
国益を念頭に置くことが悪いことだと感じてしまう。
そのような人たちがしばらく日本の中枢にいたのですから、日本が経済的には発展しても、外交力は脆弱で、袋叩きになるわけです。
日本人は今一度、リアリズムに根差してやり直さなくてはなりません。
国益の追求はあたりまえのことです。
外国との調和を考慮しながら、国益を確保できる人材こそが国際社会でも尊敬される。そういう人材をいかに多く輩出できるかに日本の将来がかかっていると思います。
(山岡 鉄秀 :Twitter:https://twitter.com/jcn92977110)
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