「安楽亭」が赤字に苦しむ理由
牛角が存在感を示し、焼肉きんぐや焼肉ライクが勢いを増すなか、存在感が低下し、業績低迷で苦しむ焼き肉チェーンがある。「安楽亭」だ。
安楽亭は現在全国に約180店を展開する。1963年に焼肉店の安楽亭が創業。78年に法人の安楽亭を設立した。85年に伊藤忠商事と資本提携して出店を加速し、店舗網を拡大してきた。郊外ロードサイド中心に出店を重ね、家族連れで気軽に利用できる焼き肉店として人気を博した。2000年には東証2部に上場を果たしている。安楽亭は他に高価格の焼き肉店「七輪房」などの飲食店を展開する。
安楽亭は90年代に存在感を発揮し業績は好調だったが、00年代に入ってからは低迷するようになった。競争が激化したほか、ユッケによる食中毒事故や放射性物質を含んだエサを食べた牛の肉の流通問題など消費者の牛肉に対するイメージ低下で客足が遠のくようになり、売上高は減少傾向が続くようになった。
01年3月期に360億円あった連結売上高は、19年3月期には163億円(前期比4%減)まで低下した。この18年で半分以下になった。19年3月期の営業利益は前期比47%減の1億8500万円だった。最終損益は1億300万円の赤字(前の期は1億4,900万円の黒字)に陥った。
安楽亭は低迷している。一方で、取って代わるかのように焼肉きんぐが台頭した。両者はどちらも郊外ロードサイドを主戦場とし価格帯や商品の品質も同程度で競合度は高い。似通った両者だが、焼肉きんぐに勢いがある一方で安楽亭の勢いは衰えた。それはなぜか。
安楽亭は創業が1963年と古く老朽化した店舗も多いことから「昔ながらの焼き肉チェーン」とのイメージが強い。一方、焼肉きんぐは誕生したのが2007年と新しいため、消費者に「どのような焼き肉店なのだろう」と興味を掻き立てることができる立場にある。こうした新旧の違いが大きく影響しているだろう。
もう1つ大きいと思われるのが「屋号」だ。焼肉きんぐは「焼き肉の王様」という意味を表すが、単純ながら「王様」と表現することで肉の品質を高められているように思える。いずれにせよ、焼肉きんぐは屋号に問題はなさそうだ。一方、安楽亭は屋号に「焼肉」の文字がないことが競争上不利になっており、屋号に問題を抱えていると筆者は考える。
安楽亭を焼き肉チェーンと知っている人に対しては問題ないが、そうではない人に対しては集客上大きな問題がある。後者の人は「安楽亭」だけを見聞きして、安楽亭が焼き肉チェーンと理解することは難しく、記憶することも難しいだろう。
そういった人が例えば車を運転していて、どこか焼き肉店で食事しようと考えた場合に、安楽亭は焼き肉店と理解されずにスルーされやすいのではないか。もちろん、看板などにおいて「安楽亭」の文字の付近に「焼肉」の文字や肉の写真が付いてはいるだろうが、それでも「安楽亭」の文字しか認識されないケースは少なくないだろう。「安楽亭」という屋号は焼き肉店と理解されやすいとはいえない。
一方、焼肉きんぐは屋号に「焼肉」の文字が入っているので、誰が見聞きしても焼肉きんぐを焼き肉店とすぐに理解できる。消費者が焼き肉を食べたいと思った際に、焼肉きんぐは想起されやすいだろう。「焼肉ライク」が屋号に「焼肉」の文字を入れたのもこうした理由からだと考えられる。
安楽亭が厳しい状況に立たされるようになったのは、これらの理由が大きいだろう。焼肉きんぐが台頭していることもあり、抜本的な対策を講じる必要がありそうだ。
郊外ロードサイドでは焼肉きんぐと安楽亭が、繁華街では焼肉ライクと牛角が覇権を争う構図となっている。どちらも新旧の対決だ。店舗数では焼肉きんぐが牛角を猛追する。焼き肉チェーン同士の戦いは激しさを増しており、今後の行方に注目が集まる。
店舗経営コンサルタントの視線で企業を鋭く分析!
毎日更新されるブログはこちら
佐藤昌司のブログ「商売ショーバイ」
image by: Shutterstock.com