【書評】弱者優遇こそ正義という「アメ」で各国支配層が殺す庶民

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「弱者優遇こそ正義」という一見正しそうな考え方が世界中を席巻していますが、果たしてそれは人類に幸福をもたらすものなのでしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、弱者優遇を正義とする「ポリティカリー・コレクト」の問題点を挙げた歯に衣着せぬエッセイをレビューしています。

「弱いものには優しくしましょう」という教えがありますが、そんな思考がヨーロッパを荒廃させた、という考えもあるようです。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、弱者優遇を正義とする「ポリティカリー・コレクト」の問題点を挙げた歯に衣着せぬエッセイをレビューしています。

偏屈BOOK案内:藤原正彦『管見妄語 失われた美風』 

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藤原正彦 著/新潮社

週刊新潮で丸10年続いた連載「管見妄語」の最後のまとめ本である。この10年間は辛かった。とりわけ2011の東北大震災後は連載を書き続けるのが苦痛だったという。わたしは起承転結がしっかりした著者の文体(&うぬぼれ)が好きで、このシリーズも読み続けたが、最後の巻はやや精彩を欠く。タイトルとなった「失われた美風」も最後の数行「グローバリズムからの穏やかな離脱こそがかつての道徳的美風を取り戻すための道筋となろう」だけに納得した。

PCポリティカリー・コレクトとは弱者優遇こそ正義」という教義で、大多数の弱者の不満をかわすため、グローバリズムの利得者(各国の支配層)が導入したアメである。狡猾な目眩ましに過ぎないが、一見当然中の当然に見えるから一気に世界中に広まった。ところが弱者とは誰かが明確に定義できない。

著者が大学にいた頃、ある女性教授が「教官数を男女同数にすべき」と発言した。PCを意識して誰もが口をつぐんだ。著者は「日本の博士課程在籍者は男性が圧倒的だから教官数の不均衡は仕方ない。このままで教官を男女同数にすれば研究レベルが著しく低下する」と言った。正論!おそらく恨みを買った。

ここ20年ほどのEUへの移民急増についても、各国の治安や国柄を保つための許容量をとっくに超えていたのに、PCのため誰も反対を唱えられなかった。「差別主義者の烙印を押されるからだ。もうとりかえしのつかないほどヨーロッパは荒廃した。各国でナショナリズムが活発化している。日本はこれを学ばず同じ轍を踏みつつある。ああ、いやだいやだ。和製トランプ出現してほしい。

わたしは紳士ではないから野卑なトランプがけっこう好きだ。トランプは演説中に騒いだ人々に対し、「ゲレムアウタヒア(Get them out here:あの連中をつまみ出せ)と卑俗な発声と表現で叫んだ。英国紳士がトランプを嫌うのは、最も大切なユーモアがない、状況に呑み込まれず、いったん自らを外に置き俯瞰するという「バランス感覚がないところだと著者は分析する。

そういう著者も散々イギリス人からバカにされてきた。イギリスに移り住んで間もなくのころ、大学での食事中に同僚から「それはアメリカ流だ」とフォークの持ち方を笑われた。外国人登録で警察に行くと「アメリカに住んでいただろう」と言われ、タクシーの運転手には「アメリカ人でしょ」と言われた。ようやく見下されていることに気付く彼らの表情にいつも含み笑いがあった

八百屋で「トメイト」と言ったら、「それはアメリカ方言で、ここではトマト」と直された。いやな国民だな。階級社会で、中上流とそれ以外とは、考え方も好みも全然違う。前者が好むのはワインやナッツ、後者はビールやフライドポテト。前者の贔屓は保守党やラグビー、後者は労働党やサッカー。ところが、アメリカ的なものを見下す、という点では完全一致する。やな国だね~。

週刊新潮で著者が「管見妄語」を連載したのは、山本夏彦が23年間「夏彦の写真コラム」を連載した場所だ。「三人寄れば文殊の知恵は嘘だ。バカが三人寄れば、三倍バカになる」と誰も言えない真理が書かれたところだ。山本翁のように言い切る度胸も能力もないと、一度断ったが7年後、定年退職後に再度依頼されて引き受けた。3枚半の原稿で毎週締切。おつかれさまでした。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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