米中覇権戦争のさなか、イランに過去最大制裁はアメリカの誤算

 

ぶち壊された和解への意図

前回の「トランプを嘲笑うサウジ石油施設空爆の黒幕は本当にイランなのか」でもお伝えしましたが、今回の件は、「変な点があります。トランプさんは9月10日、「イラン空爆」を主張していた「最強硬派」ボルトンさんを解任しました。そして、9月14日には、トランプ政権がイランとの和解を目指していることが報じられた。

米、原油禁輸で適用除外検討 対イラン、核で譲歩狙う

共同 9/14(土)17:57配信

 

【ワシントン共同】トランプ米政権が、イラン産原油の禁輸措置について一部の国・地域の適用除外を復活させる案の検討を始めたことが13日分かった。米政府関係者が共同通信に明らかにした。離脱したイラン核合意に代わる新たな合意を目指す米政権は、イラン経済の生命線である原油への締め付けを緩め、核・ミサイル問題で譲歩を引き出す狙いとみられる。

この案は、「イランが原油輸出できるようにするかわりに譲歩を引き出す」ということで、WIN-WINのディールになる可能性がありました。具体的なアクションのプランもあり、トランプは、国連総会に参加するロウハニ大統領と会おうとしていた。

トランプ氏は今月のニューヨークでの国連総会に合わせ、イランのロウハニ大統領と前提条件なしに首脳会談を行う用意があると表明。対立を緩和して再交渉入りできるかどうか注目されている。
(同上)

まさにトランプがイランとの和解に動き始めたその時にサウジ攻撃が起こったのです。

サウジ石油施設攻撃で生産停止 日量570万バレル、最大被害

共同 9/15(日)6:20配信

 

【チュニス、ワシントン共同】サウジアラビア東部の国営石油会社サウジアラムコの石油施設2カ所で14日、無人機による攻撃があり、サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は、同国の石油日量生産能力の半分に当たる約570万バレルの生産が停止したと発表した。世界の日量生産の約5%に相当する。イエメンの親イラン武装組織フーシ派が犯行声明を出した。フーシ派のサウジ石油施設攻撃による被害としては、過去最大級。

これを「偶然と考えるのはなかなか困難です。「和解のプロセスをぶち壊す意図があった」と考えるのが自然でしょう。

誰が和解のプロセスをぶち壊したかった?これは何の証拠もないので断言できません。皆さんも、あれこれ考えてみてください。

ただ、安倍総理のイラン訪問中に起きた日本タンカー攻撃同様、国際社会は、「制裁から抜け出したいイランがサウジ攻撃とかそんなバカなことするかなあ???」というムード。だから、アメリカが笛を吹いても、国際社会はなかなか踊ってくれません(日本ですら踊らない)。

というわけで、トランプさんの決断で、イラン戦争はひとまず回避されました。しかし、根本問題は何も解決されていません。イランは、情勢に変化がなければ、60日ごとに核合意破りを強化していくとしています。いずれ、ウラン濃縮度20%を超える日が来る。そうなると、また戦争の可能性が高まっていきます。一番いいのは、アメリカがイラン核合意に復帰して、イランが原油輸出できるようにすること。

そして、アメリカの動きは、まったく戦略的ではありません。「米中覇権戦争の最中になにやってんの?」ということですね。こんなバカげたことをやっていて、米中戦の方は大丈夫なのでしょうか?

image by: Gil Corzo / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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