すべては大統領選のために
【毎日】は2面の木曜日掲載コラム「木語」で、専門編集委員の坂東賢治記者が興味深い事実に注目している。 タイトルは「米印首脳の共通項」。
国連の気候変動行動サミットに突然姿を見せたトランプ氏(10分間だけだったようだが…)。 トランプ氏なりに環境問題への関心を示したという評価もあるそうだが、実は、丁度演説の時間を迎えていたインドのモディ首相への配慮だったのではないかという。
その前日、テキサス州ヒューストンで開かれたインド系米国人の大集会にトランプ氏は招かれていたという。 約5万人の観衆の前に、モディ氏と手を握り合って登場したトランプ氏。 いつも自分が主役でなければ気が済まないトランプ氏が珍しく脇役に甘んじていたのは、400万人を超え、有力者も多いインド系米国人から、大統領選で支持を得たいがためではないかという。 あるいは、強権的で選挙に強く、総選挙で権力基盤を強化したモディ氏にあやかりたいのかもしれないと見る。
だが、モディ氏が率いるインド人民党はヒンズー至上主義で、イスラム教徒らマイノリティを迫害しているとの批判がある。 モディ氏は8月、カシミール州の自治権を剥奪して地域情勢を不安定化させたこともあり、「「2大」民主国家」のトップの蜜月ぶりも手放しでは喜べない」とする。
私が思い当たったのは、2008年のインド映画「スラムドッグ$ミリオネア」。 貧民街に暮らす主人公らイスラム系の人々がヒンズー過激派の集団に襲われ、母親が殴り殺されるシーンが出てくる。 勿論、これは映画の話だが、とりわけイスラム系の住民に対するヒンズー至上主義者による迫害は事実と思われる。 その政党が政権を握っているのが今のインド、ということになる。 トランプ・モディの蜜月には理由があるということか。
内部告発者の議会証言がヤマ
【東京】は11面の特集「2020年 米大統領選」でトランプ氏の疑惑について書いている。
ロシア疑惑に関して民主党が弾劾に進まなかった理由については、《朝日》に書かれていることと同様で、「特別検察官の報告以上の疑惑を明らかにする作業は容易ではなく、政策論争よりも弾劾訴追に集中することで国民の支持を失い、共和党が多数の上院で否決されれば、むしろトランプ氏を利すると考えたからだ」という。
既に、トランプ氏がウクライナ大統領にバイデン前副大統領の次男の捜査を要求していたことはホワイトハウスが公表した通話記録からも判明しているが、トランプ氏は圧力を掛けていないとして、調査の動きに対しても「バカげている。 魔女狩りだ」と悪罵を浴びせている。
トランプ氏の「不適切な約束」を内部告発した情報当局者は近く議会で証言するとみられていて、「トランプ氏が政敵を倒すために大統領の地位を利用して外国政府に圧力をかけ、協力を引き出すために軍事支援という国民の税金を担保にした、という構図」(ワシントン・ポスト紙)を明らかにすれば、トランプ氏は窮地に立たされることになるとみられているようだ。
民主党の有力な大統領候補であるバイデン氏は、各種調査でもトランプ氏との一騎打ちで支持率を大きく上回っているのだそうで、トランプ氏としてはなんとかバイデン氏が選挙に出てこられないようにしなければと必死だったのだろう。
思うに、自国第一主義と言いながら、国内で権力を握るにあたって充てにするのがいつも外国政府というのは、実に奇妙で危険な構図のように思える。 境地に陥ったトランプ氏が起死回生を期して何をしてくるのか、それもまた恐ろしいことのように思われる。
image by: Адміністрація Президента України [CC BY 4.0], via Wikimedia Commons