死人に口なしか。故人の元助役に責任なすりつけ逃げる関電の卑劣

 

なぜ森山氏をそれほど恐れたのか。むしろ、関電のおかげでカネや地位や権勢を手中にできた森山氏のほうが、頭が上がらないはずである。だからこその付け届けだ。関電のおかげで吉田開発などの関係企業に仕事をまわせたし、その工事規模や概算見積りといった情報までも事前に教えてもらえる特別待遇を受けていたのである。

たしかに世の中には、ボスとか、頭目とか、フィクサーと呼ばれるような、何ごとにも有無を言わさないオーラを放つ人物がいる。記者会見で関電側は森山氏から恫喝や脅迫を受けて病気になった社員の事例をあげ、いかに森山氏が異常な人格であったかを強調したが、それほどのことがあるのなら警察沙汰にしてもいいのではないか

贈った金品を返してきたからといって、たとえば再稼働を邪魔するなどということが考えられるだろうか。「俺の顔を潰す気か」と一時的に憤慨することがあったとしても、である。町の顔役か有力者か知らないが、それで損をするのは森山氏自身である。森山氏の望む業者に原発関連工事を発注してくれないほうが困るはずではないか。

その事情をいちばん知っているのは関電である。高額すぎるので返したかったが怖くて返せなかったのではなく、高額ゆえに黙っておさめておこうという気が少しもなかったといえるだろうか。もちろん、関電の経営陣ともなれば高額の給料をもらっているだろう。だから、金品など欲しくはないかというと、そうでもあるまい。人間の欲には限りがないのだ。

金品を受け取った20人のうち4人は「預かっていた」という言い訳が通用せず、税務署に修正申告して追加納税をしている。そもそも「預かっていたは不自然な言い草だ。

もうひとつ不思議なことがある。2011年~18年の7年間に合計3億2,000万円が森山氏から20人の手に渡っていると関電自身の調査で判明したわけだが、これだけの額を「吉田開発」一社の儲けのなかから拠出しているとすれば、よほど利益が出ていなければならない

共同通信によると、「吉田開発」は、2013年8月期の売上高は3億5,000万円だったが、15年8月期は10億円を超え、18年8月期には21億円を上回った

関電の調査によると、2018年に関電が吉田開発に直接発注したのは2億5000万円
で、ゼネコンを通して吉田開発が間接受注した額はピーク時の2017年に21億円にのぼったという。

ものすごい売り上げの伸びなのは確かだ。それでも3億2,000万円は事業の規模に比べるとあまりに多額ではないか。森山氏が吉田開発から受け取っていた裏金は3億円と言われるが、それ以外にも相当な収入がないと、勘定が合わない。

朝日新聞によると、森山氏は原発警備を請け負う地元企業の取締役や兵庫県内に本社を置く原発メンテナンス会社の相談役に就いていた。

この原発メンテナンス会社は、関電や関電と契約している大手重工メーカーを通じるなどして約86億円(2016~19年)を受注しており、森山氏が吉田開発のみならず数社からかなり多額の収入を得ていたと考えられる。

民間の金品のやりとりとはいえ、森山氏を仲介役としたワイロがかなり前から常習化していたのではないのだろうか。キックバックやリベートといえば幾分、聞こえはいいが、その場合も原資は利用者の支払った電気料金なのである。実質的にはネコババと言っていい。

株式会社における取締役などの役員については、会社法967条で賄賂の処罰規定がある。「その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する」。

民間人だから贈収賄罪と無関係とはいえない。ましてや、大手電力会社は公的な性格が強く、それゆえに国から様々な恩典に浴してきたのだ。

電力会社が原発の立地する地域にカネをばらまく話はよく耳にするが、今回のように、電力会社側が金品を受け取る利権構図は、ほとんど聞いたためしがない。大概は、自治体や住民を納得させるため電力会社が協力金や寄付金と称してカネをばらまく構図だ。

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