ホーさんは、2019年7月、スイスのジュネーブで開催された国連人権理事会で演説しました。香港の政治的現状、デモの現状などを報告した後、中国を国連人権理事会から除外するように求めるスピーチをしたのです。たった2分間程度のものでしたが、その間、二度も中国がスピーチの中止を要請しました。
● 香港歌手デニス・ホー、国連でスピーチ「中国を人権理事会から外して」
デモについての明言を避け、保身に走る香港の大スター、ジャッキー・チェンとは正反対です。台北で背後からペンキをかけられたときも、彼女は非常に冷静で、「このような脅しや威嚇を香港の人々は日々うけている。それでも我々は屈しないし撤退しない」と述べて、街頭インタビューを締めくくりました。
彼女は、別のインタビューで次のようにも言っています。香港の芸能界で同志を見つけることは極めて難しいけれど、有名人として届けるべき声がある。自分の立場で自分にしかできないことがあるならば、その責務を果たしたい。そして、それは自分の気持ちに正直に行動することでもあると。
異なる意見を持つ人物に対して、背後から赤ペンキをかけるという卑劣な行為は、中国人の常套手段です。李登輝元総統も、かつてある退役軍人から赤ペンキをかけられたことがありました。
インドネシアの華僑から、香港経由でアメリカに移住し、現在は台湾在住の林保華というジャーナリストがいます。彼は、ノーベル平和賞を受賞した中国の活動家で、度重なる逮捕で2017年に獄死した劉暁波氏と、あるメディアで対談したことがありました。そのとき、劉暁波氏は「中国は、300年間くらい西洋植民地として統治されなければ、民主化は不可能だ」と言っていました。林氏も、中国共産党に目をつけられているジャーナリストであり、二人は同じ思想の持ち主です。
しかし、林氏は劉氏が立ち上げた「08憲章」(2008年12月9日に劉暁波ら303名が連名でインターネット上で発表した、中国の政治・社会体制について、中国共産党の一党独裁の終結、三権分立、民主化推進、人権状況の改善などを求めた宣言文)に署名しませんでした。
私は、台湾で林氏に会ったとき、このことを質してみたことがあります。すると彼は、「08憲章」の中に「民族自決」の項目が追記されなければ署名はしないと断言したのです。しかし、かつて劉氏は「民族自決」の項目を入れてしまうと、皆が恐れて署名してくれないから加えるのは避けたとのことでした。
今の「中華民族」は、チベット人、ウイグル人、モンゴル人、香港人などの周辺民族によって「五独乱華」(五胡が中華を乱す)の状態です。考えてみれば、香港でデモをしている若者たちは、中華人民共和国の教育を受けた世代です。建国70周年を誇る中国が、人民を洗脳しようと必死になって行ってきた教育を受けた世代が、一方では中国共産党の犬となり、一方では中国共産党に立ち向かおうとしています。この構図は、今後の中国の体制において重要な要素となっていくでしょう。
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※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2019年10月2日号の一部抜粋です。