【書評】味わい深い中華の極意。日本発アレンジに国際派が熱視線

2019.12.27
書評_中華料理
 

今や世界のどの街にもある中華料理店。国境を越え、まさに世界中の胃袋を掴む味として各国で親しまれてきました。在日中国人コラムニスト除航明さんは、中華料理が日本で受け入れられてきた背景について、民族文化とイノベーションの観点から本書で分析しています。除さんの目には「世界の食の集積地」としての日本と中華料理の関係は、どのように映るのでしょうか。ライターの本郷香奈さんがレビューとともに明かします。

日本を舞台に進化を続ける中華料理

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中華料理進化論』徐航明 著/イーストプレス

外国に旅行した人なら分かるだろうが、どんな国でもある一定規模の街ならば、ほぼどこにでもChinese Food (広義の中華料理)の店はある。日本食レストランは以前に比べてだいぶ増えてきたとはいえ、まだ店を構えていない場所も多い。だが中華なら見つけられる可能性は高い。日本人として、日本食が恋しくなった時の有力な代替食になる最後の砦だ。

その中華料理は、東洋人のみならず西洋人にも人気があり、欧米でも、高級感ある店からショッピングセンターに併設されているフードコートのカジュアルな店まで、多くの人で賑わっている。もちろん日本でも日常的に家庭の食卓に上るほど中華料理が好きな人は多いし、街中には多くの店がある。まさに日本人の胃袋をがっちり捉えているといえる。だからこそ、海外で食べる時よりむしろ日本で食べる中華料理がなぜかおいしいと感じることは多い。なぜなのか。本書を読み進めていくうちに、それが分かってくる。

日本に中華料理」と「中国料理」の二つの表現がある理由はなぜか、というところから本書はスタートする。本書で定義する中華料理とは、日本における中国から伝播されたいわば「狭義」の中華料理を指し、庶民的で、日本各地のどこにもあるような規模の店の料理というイメージがあたる。

他方、そのまま本場・中国の料理を指す中国料理となると、店構えも立派で、使っている食材も高級なものだ。たった一文字の違いながら、イメージするものは大きく違う。本書はまずそうした来歴と定義を確認したうえで、大きな流れを振り返る。 

中華料理の始まりは、当然ながら中国で生まれた中国料理の影響を受けている。どんな食材も用い、作る場所を問わないという特徴から、長い歴史の中で発展してきた。その過程で他の地域や他民族の食文化も融合させながら、質的な変化も見せてきた。中華料理は、その初期には、中国の料理を忠実に再現するところから始まるが、その後の工夫によって「日本化」が進んだ結果、和食に慣れ親しんだ日本社会に定着していったとみているのだ。

中華料理の具体的な発展過程は、本書によると発祥は江戸時代まで遡るという。中国から伝わった料理が京都や大阪、江戸など当時の大都市に伝わって、その後、明治時代に入ってから中国人向けの店ができたところが始まりだという。

その後、日本社会の変化にともなって、中華料理は一段と変質する。戦前から戦後直後にかけての食糧難時代には、多くの人に安くておいしい料理を提供する役割を担って広まった。その後の高度成長時代には、豊かさを感じられる料理へとその様相を変える。時代の流れに応じて変化を続け、日本人が抵抗なく受け入れられる料理として社会に根付いていった。まさに日本が中華料理に変化の場を与えたといえる。

さらに、ラーメンやギョウザのように、日本で国民食として定着した後に、逆に中国に伝播して現地に新たな視点を与えたほか、また近年、日本の街中でもよく見かけるようになった「西安刀削麺」や「蘭州拉麺」のように、目新しい料理が中国から伝わって根付き始めている事例もある。伝播の繰り返しや新たな流入が、ダイナミックな食の文化を生み出している。本書のこうした解説には目を開かれる。

中国料理と日本料理の違いに触れつつ、中国料理が進化した背景を解説しているくだりも興味深い。良質な水に恵まれ、さほど手をかけずに出汁をとることができる日本料理。うまみをもった食材から時間をかけて濃厚なスープを取り出す中国料理。さらに、新鮮な食材から比較的簡単な調理で作る日本料理に比べ、あらゆる食材を用いて複数の味を合成することで成り立つ中国料理。こうした分析から、それぞれの料理にそれぞれの強みがあることが分かる。

中華料理は日本国内での様々な質的変化や、中国やその他地域との伝播・逆伝播を繰り返しながら、今後もますます発展するだろう。本書でも、中華料理は本場の中国料理からまだまだ知られていないことを数多く学び、新たな要素を吸収することに加え、世界各国の料理の集積地たる日本でこそ可能な他国料理との融合などでより一段の進化が達成できるのではないかと指摘する。日本を舞台に、グローバル化と相互作用の中で未来にどんな新しい中華料理が生まれてくるのか、今から楽しみである。

image by:Shutterstock

本郷香奈

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